3月13日(土)、公開講座「シネマで学ぶ『人間と社会の現在』シリーズ4」を朱雀キャンパスにて開催した。
この公開講座は、人間科学研究所・生存学研究センターが主催のもので、映画上映とその映画の内容にかかわる対談・講演とを同時に行うものである。今回は「生きがたさのなかで―子供と希望―」と題したシリーズ4の第3回目、映画は土本典昭監督の『海とお月さまたち』である。
本作は、 1980年に製作された子供向けのドキュメンタリーである。コンセプトは「老人と子供、自然と人間の有り様」。自然と人間との共生の世界を描くことで、子供たちに命のつながりを感じてもらうことを目的に制作された。
映画の舞台は水俣市近くにある不知火海と海に面した深見町。月の暦を体得して、細 かい潮の変化や魚の動きを読み取りながら、伝統的な漁法である一本釣りで生計を立てている漁師たちに焦点が当てられる。老人が子どもたちに昔ながらの魚釣りのコツやエサの作り方を楽しそうに語る様子や、家族一体となって漁を支えながら生活する様子が描かれている。映画全体を通して、漁民の世界では月の存在 が"太陽"であることを間接的に訴えかけ、漁師と生き物との対話、すなわち人間と自然の共存が漁師の指先と釣り糸に凝縮されて描かれているのが特徴的である。この映画では「水俣病」という言葉が使われず、水俣病事件前の不知火海の情景を見ることができる。そのためか、この映画は地元の人々に非常に愛されて いるという。
対談は、映画同人シネ・アソシエ責任者で、故土本監督の助手をつとめていた土本基子氏と、栗原彬特別招聘教授によって行わ れた。土本氏は「水俣病を招いた人間本位の行為と同様に、海を枯渇させるような大型機械船によるとりつくし漁が近年行われるようになった。伝統的な漁法である一本釣りに対して、政府は水俣病と同じように差別と無視と放置で対応している。更に、現在社会では月の存在が忘れられている。この映画を見て、月の存 在と命のつながりを感じて欲しい」と語った。
また、栗原教授は「この作品には、人と自然、老人と子供、更には食物連鎖といった命のつながりが描か れている。ところが、現在社会は貧困が横広がりへと拡大しており、差別も激しい。本来人間は"つながり"の中で生きなければいけない」と語った。
参加者からは、「この作品は、伝統的な漁で生計をたてる漁師の生活を大きく取り上げていて、人間と自然を対等に捉えているように感じた。現在社会は自然とは遠い社会になっている。もう少し、生き物の命を敬おうと思った」という声もあり、対談後に多くの方々が土本氏に当時の撮影状況や裏話などを尋ねていた。
次回からは、シリーズ5「ひとりだけど、ひとりじゃない―虚構の中のリアル―」をテーマとし、5月15日(土)に『空気人形』を取り上げる。
当日の様子はこちら。
http://www.ritsumei.jp/pickup/detail_j/topics/5552/date/3/year/2010