1月30日(土)、朱雀キャンパスにおいて、公開講座「シネマで学ぶ『人間と社会の現在』」を開催した。この講座は、本学の人間科学研究所と生存学研究センターが主催する、映画上映と同時に映画内容に関係する講演・対談を行うものである。
今回から始まったシリーズ4は、「生きがたさのなかで-子どもと希望-」をテーマとしている。さまざまな「障老病異」と共に暮らすことが求められる世界のなかで、「子ども」を産み育てることへの希望や「子ども」が生きのびるための希望がいかにありえるのか、を生存学的な観点から読み解いていくものである。上映されたのは、橋口亮輔監督、田辺誠一、高橋和也、片岡礼子主演の映画『ハッシュ!』である。カンヌ国際映画祭監督週間正式招待作品、キネマ旬報ベストテン第2位、第3回文化庁優秀映画賞長編部門優秀映画大賞など数々の賞を受賞した作品である。
この映画では、現代の東京を舞台にして、ゲイの男性カップルと彼らに精子の提供を依頼する女性との出会いとの関係性を軸に、①都市の生活空間における孤独な人間関係、②伝統的な家族関係の中におかれたセクシュアリティ、そして③生殖の問題が描出されている。
今回の対談は、映画監督・橋口亮輔氏と広島修道大学人文学部教授・河口和也氏の二人で行われた。河口氏は、2003年に岩波書店から『クイア・スタディーズ』を上梓し、この中で『ハッシュ!』を論じており、また大学での授業の教材としても本作を繰り返し取りあげられている。河口氏は「一対一の二人という組み合わせ、とりわけ家父長制的異性愛的な夫婦・恋人関係が、映画の中で育まれていく三人という組み合わせによって揺るがされている」と指摘した。橋口氏は、「映画製作のための調査として訪れたアムステルダムの状況、そこで出会った子どもを産み育てる三人から映画へのアイデアを得たこと、後に三人が共同体をさらに広げている状況にある」と語った。そして、ゲイにとって子どもを育てるということ、生まれ育った伝統的家族とは異なる家族・共同体を自分の意志によって新しく選択することの可能性について語り合われ、対談は締めくくられた。
次回のシネマで学ぶ「人間と社会の現在」、2010年2月27日(土)13:00より、朱雀キャンパスで行われる。映画『チョコラ!』を取り上げ、小林茂監督と林達雄氏(立命館大学特別招聘教授・アフリカ日本協議会代表)による対談を実施する。
当日の様子はこちら。
http://www.ritsumei.jp/pickup/detail_j/topics/5281/date/1/year/2010