茶道研究部OBの野口和良さん(’73法卒)から茶会のレポートが届きましたので、下記の通り掲載いたします。
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去る2015年11月15日(日)修学院にある(公財)日本クリスチャン・アカデミー 関西セミナーハウスの茶室「清心庵」にて、立命館大学Ⅰ部茶道研究部1977~79年(昭52~54)卒OBOGが亭主となり、卒業年度の近い関西のOBOGを招いて(九州から又北海道からもお越しいただきました)華甲の茶会を催しました。かこうのちゃかいとは、華は十が六つと一が一つで数えの61、甲子(きのえね)は十干十二支の組合せ60年の始まりで、両方ともに還暦の意味ですので、還暦のお茶会のことを茶道ではそう呼ぶのだそうです。2013年に先輩が還暦茶会を同じ場所で催され、その後を引き継ぎました。
客は「在釜」(ざいふ。釜を掛けており、何方でもお越しくださいの意味。これを半紙に墨で書いて近くのバス停などからあちこちに貼り付け茶会会場までの道案内としている。)の貼り紙の矢印に沿ってセミナーハウスの藁葺屋根のある門を潜り、紅葉の木々の間を通り抜け、日本家屋の玄関で靴を脱いで畳の間に上がり受付係と対面。扇子を前において挨拶し、芳名録に署名し水屋見舞いを差し出すと、受付は礼を述べ茶扇を広げ席札を載せて差し出す。今回の席札は友禅柄の色紙二つ折りに紅葉色の毛糸の付いた手作りの栞。内側片面には時と所と華甲の茶会であることが詳しく記され、もう片面には席札ごとに違う和歌が書かれており、ほかの客と見せ合うとどうやら百人一首の歌らしい。
毛氈の敷かれた待合の床は表千家先代即中斎の筆でめでたい海老の図。広い庭は見晴らしが良い。知り合いと話をしていると、迎え付けが席札番号○番から○番までの方どうぞと呼びに来る。用意された雪駄を履いて下の茶室まで庭を降りていく。蹲居(つくばい)で手と口を清め、躙口(にじりぐち)で前の客の雪駄を沓脱石から壁際に揃えて置いてから、扇子を躙口(にじりぐち)において茶室の中を伺い、躙って入る。躙口を潜るときいつも感じるのだが、利休が刀を持って入れぬよう考案したとの説明もされるが、むしろ小間の狭い空間に立って入るのではなく、狭さを感じさせずにこの小間の空間を1つの宇宙として感じるためにはこの狭い躙り口から入ることは必然だと思う。小間は茶を媒介として皆の気が一つになる異空間である。
香の匂い。床の間の前に扇子を置く。床には真っ赤な軸。点前座の棚と平棗(ひらなつめ)、釜を拝見し客畳に座る。ややあって茶道口が開き着物姿の点前が茶碗、続いて建水を持ち出し柄杓を引いて総礼。半東が出て正客と挨拶すると沈黙していた座が一挙に和む。早速今回の華甲の茶会の経緯から紆余曲折しつつ床の説明に話は弾む。真っ赤な軸は大徳寺黄梅院小林太玄和尚筆「寿」。筆の勢いに禅機を見る。蓋置は中川浄益造銀南鐐(なんりょう)「菊と蟹」菊は華、蟹は甲羅を表し菊と蟹は還暦の吉祥とされ、華甲の象徴とされるという蘊蓄に皆がホホーッ。点前が菓子を勧めた後、煮え滾る釜の湯に点前が水指の水を一尺いれ、松風(釜の滾る音)が止む瞬間、茶室の音が消える。茶を点て始めると釜の音がゆっくりと戻ってくる。主菓子は嘯月(しょうげつ)の山路、お茶は柳桜園の珠の白。隣にお相伴いたします、お先に、と挨拶し、お菓子を味わいお茶を頂く。先ほどの席札はやはり百人一首の歌で、その歌番号が席札の番号として大文字の漢数字で書かれている。点前は仕舞いに入り、茶道口で総礼。美しい螺鈿の加賀蒔絵の茶入を拝見し、その軽さにびっくり。心を残しながら退席した。