校友会報「りつめい」×輝く校友インタビュー

  • 表紙の人
    • スウェーデン王立バレエ
      プリンシパルダンサー
      木田真理子 さん
      ('07 産社)

       バレエ界のアカデミー賞とも称されるブノワ賞。権威あるその賞を木田真理子さんが掴んだというニュースが、日本中を沸かせました。今、世界で最も注目を集めるバレエダンサーの一人となった木田さんが、そのトロフィーを手にするまでには、ある大きな試練がありました。

    • 表紙の人
  • 目次
    • 01 輝くひと 木田真理子さん
    • 03 巻頭特集 父の背中を追いかけて -“結いの島”から思いを届ける―
    • 08 特別インタビュー 「経験と思いを伝えたい」
    • 09 立命館中学・高等学校移転News
    • 10 RITSUMEI INTERVIEW
         全日本空輸株式会社 伊藤博行さん
    • 14 「オール立命館校友大会2014in岡山」
         アカデミック企画のご案内
    • 15 校友会・グループインフォメーション
    • 16 校友会ネットワーク
    • 18 震災関連記事
         気仙沼・ONE-LINEプロジェクト「希望の光で被災地を笑顔に」
    • 19 復興支援金芳名録
    • 20 校友NEWS
    • 22 研究者たち
         硬くてしなやか、新しい金属材料を開発
         理工学部 飴山 惠教授
    • 24 学生イベント& スポーツ
    • 26 キャンパストピックス
    • 29 +Rな人 渡辺健太さん
    • 30 INFORMATION 編集室から
  • 巻頭インタビュー

    • 全日本空輸株式会社
      代表取締役副社長
      伊藤 博行 氏
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    • No.258
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Hiroyuki Ito
1974 年 立命館大学理工学部 卒業
全日本空輸株式会社に航空整備士として入社
1984 年  同 広報室広報課
1986 年  同 整備本部東京ライン
整備工場整備統制室計画課
2003 年  同 執行役員 整備本部副本部長
2006 年  同 取締役執行役員 整備本部長
2008 年  同 常勤監査役
2010 年  同 常務取締役執行役員 整備本部長
2013 年  同 代表取締役副社長(現職)
現在に至る
北海道に生まれる。趣味はゴルフと愛車を洗うこと。週末は茨城県の自宅へ帰り「触った時に指が滑るよう納得いくまで磨きます」と、飛行機の塗装と同じく車の表面にも整備士ならではのこだわり。乗る時間がないのが悩み。
伊藤博行


 2013年4月、ANAの代表取締役副社長に就任した。しかし40年前の入社当時は営業でも経営でもなく、現場の航空整備士。整備畑を長く歩んでから経営者へという、異例の経歴を持っている。

伊藤 かっこいい話ではないのです。私は大学の成績が良くなかったので、理系では主流だった学校推薦ではなく個人で試験を受けることにしました。当時のANAは就職試験が学校推薦ではなく、個人の自由応募で受けられたこと、それに「飛行機という最先端の技術に直接触れられるので、おもしろそうだな」と思ったことが試験を受けたきっかけです。そして1974年に入社し、まず大阪国際空港(伊丹空港)で3年間整備の実務経験を積んで、受験資格ができたら一等航空整備士の国家試験を受けようと思っていました。しかしそこへ技術職スタッフへの辞令が出て、私としては現場を離れることは本位ではなかったのですが、生産管理のセクションへ移りました。さらにその3年後、29歳で今度は人事や賃金などに携わる労務管理の仕事に移って4年間その職務を経験したのですが、これが私の一番初めの転機になります。私はこの労務管理の経験があったからこそ、技術系の人間が歩まなかったキャリアを歩ませてもらえたのだと思っています。
その後東京へ異動になり、本社の広報室勤務になり、2年間広報マンとして働きました。ANAが初の国際線定期便を成田空港からグアムへ飛ばすことになった1986年、再び整備のその初便行事を担当し、現場に戻って、その後は整備一筋。そういう意味では40年間のキャリアのうち、ほとんどを整備の世界で過ごしてきました。今はオペーレーション統括といって、整備士や乗員といった現場の総合的な管理をしています。また経営トップから現場まで、全ての安全管理体制を取りまとめる安全統括管理者にも、業務の重要な決定に経営者としてものが言える、判断できる立場ということで選ばれました。これも整備現場の経験があったからです。肩書きの重さはそれほど気になりません。でも以前は整備本部長などで自分の現場を持っていたのに、今はそれがないことがちょっと寂しいですね。ずっと現場育ちでしたから。



 現在の姿からは全く想像できないが、伊藤さんは異動した新たな部署で「電話の対応にも苦労した」経験があるという。それをどう乗り越えたのか。

伊藤 これまで一番大変だったのは、33歳で整備の現場から広報の業務に異動したときです。東京の本社で外の世界への窓口になったのですが、当時の私は電話のやり取りなどで使う「御社」「弊社」という言葉も知りませんでした。社会の一般常識が足りず、非常に萎縮したものです。でもよかったのは当時素晴らしい先輩に恵まれて、怒られながらも本当にかわいがって育ててもらいました。ここでは、困っている時は自分を一度白紙にして素直に助けてもらう大切さを学びました。壁にぶつかった時は自分一人の力で乗り越えることは難しいものです。この時の経験もあって、新入社員にはよく「スポンジになれ」と言っています。素直に「わかりません」と言ったほうがいろんなものを吸収していけますから。そうやって先輩の経験を吸収しながら、管理職になったときは「この仕事は自分が一番よく知っている」と自信を持てるように仕事をしていくことが大切ではないでしょうか。若い社員と管理職になったとき、そのポジションによって気持ちの持ち方を変えるべきだと思っています。



 思わぬタイミングで、伊藤さんは整備の知識を活かすことになる。整備の経験があったからこそ、より身に染みる安全の尊さ。その時根付いた信念が「大切なのは技術だけではない」という考えにつながっている。

伊藤 1985年に起きた日航ジャンボ機墜落事故、あのとき広報部門にいたことも私にとって大きな転機となりました。当時のJALは大混乱していたし、ANAでは私が初めて整備現場から広報へいった人間だったので、事故の原因など技術的な問い合わせをよく受けました。航空業界そのものが本当に厳しい状況下に置かれた中、私は整備の経験と知識を活かすことになりました。520名もの方が亡くなったあの事故は「何があっても絶対に航空事故は起こしてはいけない」それを肌で感じた出来事です。
以前私も職員採用の最終面接をしていたのですが、その時「整備士にとって一番大切なことは何だ」と必ず聞きました。私の答えは「チームワーク」です。あれだけ大きな飛行機ですから、一人では整備できません。それに整備は機械ではできませんから、人間の手で1つ1つネジを締めなきゃ飛行機は飛ばない。整備士たちがそれぞれの分担をきちっと誠実にやることで、一機の飛行機の整備が完成します。これは関わる一人一人を信用しなければできません。最後は最終責任者が完了のサインをしますが、何かあったら彼が警察に引っ張られます。だから一人一人が誠実であること、そしてチームワークと互いの信頼が必要です。私どもANAは飛行機を飛ばす技術において世界一だと思っていますが、それは飛行機を飛ばすということに関わる全員が世界一誠実に対応している。その積み重ねなのです。



 航空の安全と企業の発展のために、人と人との関係を何よりも大切にする。それは入社から40年たった今も変わらない。その原点は学生時代の経験にあった。

伊藤 大学生だった頃、私は衣笠キャンパスの近くにある松井マンションと呼ばれる、マンションとは程遠い一軒家に住んでいました。みんなノックもなしに出入りするから、プライバシーなんか全くない生活でしたね。学業の方は機械製図の作成が苦手だったため、卒業を前にして課題を提出できず困っていました。すると同級生に親切なやつがいて「おまえはどうせできないだろうから、自分の製図を写せ」と言ってくれたのです。ところが僕はそれを写すこともできませんでした。実はその機械製図を写したのが、当時経営学部の学生で、今の私の女房だったのですが(笑)そんな助けがなければ卒業できていませんでした。大学時代はそんないい同級生に恵まれました。また下宿の先輩にも本当に親身になって世話をしてもらい、よくご飯をごちそうになったことを覚えています。それがなければとても学生生活を乗り切れませんでしたね。この記憶が今の「人間関係を大切にする」という考えのベースになったと思います。
企業も人間関係が一番力になると確信しています。私は会社の先輩たちにかわいがってもらいました。だからそれは、少しでも会社を良い方向へ発展させて後輩に返す。大切なのは先輩たちが常に部下たちをきちっと見ていること。「いつも気にかけているよ」というメッセージを伝えてあげる。それが脈々とつながっていくことが会社を存続させ、後輩に引き継ぐことにつながると思っています。私も“どうやってみんなの力を引き出すか”ということが自分の仕事だと思っていますし、後輩には目配りをすることを日々心がけています。
しかし今、私はANAの変化にある危機感を持っています。特にANAが新卒大学生の就職人気企業1位になったとき、その危機感を一番強く感じました。どういうことかと言うと、「自分の会社が好きだ」という気持ちが変わってきているということです。私たちの年代の社員はいつもJALと比較され、ANAを発展させてよくしたい、いつかはJALを追い越したいという思いを常に持って努力してきました。ところが今入ってくる人たちが「ANAという会社が好きなのではなく、人気企業1位だから入社した」のなら「今以上によい会社にしたい」という気持ちにならないわけです。1位でなくなれば、その人たちは会社から離れていってしまいます。「この会社が好きだ、さらに成長させたい」という思いを社員の中に醸成していくためには、やはり先輩たちが後輩にその思いを伝えられる人間関係が大切だと思っています。
ANAは国際線の旅客数でJALを追い抜きました。しかし私はあまり数字で一喜一憂する方ではなく、それよりも会社を存続させていく、後輩により良くして引き継いでいくにはどうしたらいいのか考えなければならないと思っています。会社をよい方向へ変化させていくために一番必要なことは、ビジネス書に書いてあるようなかっこいいことではなく会社に対する愛着だと感じています。



 自分が育った企業を、次世代のために発展させたいという伊藤さん。その目は今、アジアに向けられている。

伊藤 私どもANAが今後どこで成長するか、それは国際線です。中でも東南アジアの成長を自分たちの成長と結び付けていこうと思っています。ですが、それはただ規模を追うのではなく「どうすればお客様に選ばれるのか」を自らに問いかけていかなければなりません。今までは日本のお客様に選ばれればよかったが、これからアジア圏でも選ばれるためには、もはや日本人だけでは戦略がたてられません。今後はアジア圏の社員を入れるなど、多様な民族でやっていく必要があると思います。しかし他国の意見だけでサービスなどを展開するのではなく、そこは日本の感覚、おもてなしの心とうまくカスタマイズすることで他と差がつき、世界で選ばれるエアラインになると思っています。
立命館大学も大分県に開学した立命館アジア太平洋大学のように、グローバル社会を見据えた先駆者としてトライしていることは素晴らしいですね。従来グローバル化というと欧米化というイメージでしたが、今は“アジア化”だと思っています。後輩の皆さんにはもっと外に出て、アメリカ、ヨーロッパだけではなくイスラム、アジアなどの異文化に出会って欲しい。それが将来の活躍の場を広げることになると思っています。




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