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き機金岡博8士(教職員校友)RITSUMEI INTERVIEWAPRIL 2025震災で感じた屈辱。 震災で感じた屈辱。 ロボットの社会実装を決意ロボットの社会実装を決意じんかなおかはかせ撮影:二村 海株式会社人機一体 代表取締役社長「人機」の社会実装を通じて、どのような社会を実現したいと考えているのか伺った。先端ロボット工学技術を駆使して人の能力を拡張するロボット「人機」の開発に取り組んでいる金岡博士。子供の頃からロボットに興味があったわけではありません。大学の専攻は化学⼯学科。いわゆる石油化学を中心としたバケ学です。博士課程進学時にロボット⼯学に転向したのも、どうしてもロボットがやりたかったというよりは「消去法で一番マシだった」という、あまり褒められない理由でした。ただ一貫して興味を持てたのが「制御」です。例えば石油化学プラントでは、温度や時間、量などをコントロールすることによって、省エネルギーで効率良く目的の化学物質を生成します(プロセス制御)。どう制御するかによって、得られる結果が変わる。化学⼯学で、そうした制御の概念に触れ、「これは面白い」と思いました。化学⼯学とは扱う物理量や時間スケールは異なりますが、ロボット⼯学においても制御は極めて重要です。「ロボットをいかに制御してうまく動かすか」。そこに面白さを見いだしたことが、現在の仕事につながっています。博士課程を出た時、立命館大学の川村貞夫教授に誘っていただき、理⼯学部ロボティクス学科に助手として着任しました。立命館大学は産学官連携が盛んで、着任早々さ立命館大学ロボティクス学科の教員から転じて株式会社人機一体を起業し、大阪・関西万博に、その成果を出展する。まざまな企業との連携のお話をいただくなど、貴重な経験を数多く積むことができました。しかし、次第に大きくなっていったのが「ロボット研究の『出口』はどこにあるのだろう」という問題意識です。大学で研究されている先端ロボット⼯学の知見は、実社会のロボットにはほとんど活かされていません。新規性や進歩性を追求する学術研究は、必ずしも社会実装を指向してはいないからです。どれだけ研究しても、それが実社会にアウトプットされないことに大きな問題意識を抱きました。もう一つ心に引っかかったのが「俺はガンダムを作る!」とロボティクス学科に入学してきた学生が、4年後にはロボットとは関係のない企業に就職していくことです。企業でアニメのようなロボットを作ることはできないし、たとえ作れたとしてもビジネスにはならないと知って、諦めてしまうのかもしれません。その現実を見て「ロボティクス学科で学んだロボット⼯学の知識を、ロボットに関わる仕事に活かしてほしい」と強く思うようになりました。それでも研究者として、教員として、恵まれた環境にいたことも事実で、当時はキャリアを捨ててまで起業することは考えていませんでした。起業を決意する決定的な一押しになったのが、2011年に発生した東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故でした。「人」が変える 未来の社会。

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