APRIL 202510目指すのは人の能力を拡張する「人機」目指すのは人の能力を拡張する「人機」万博で描くロボットの社会実装万博で描くロボットの社会実装多機能鉄道重機(零式人機 ver.2.0 をベースとした日本信号による製品)の初導入 JR西日本、日本信号と共同開発した零式人機 ver.2.0(写真提供:JR西日本)わち人だけでも、機械だけでも実現できない機能を持った、れたのは、お互いを知る努力を重ねた結果でした。クライ事故直後、非常に高い放射線量の中で緊急・復旧作業に当たったのは、人。こうした場所でこそ活躍するはずのロボットは極めて限定的にしか投入されませんでした。優れていると思っていた先端ロボット⼯学技術が、災害現場ではほぼ役に立たなかった。ロボット⼯学の研究者にとって、これほど屈辱的な経験はありませんでした。「この状況を何とかできる『力』が欲しい。それをロボット⼯学で作ることができるなら、作りたい。次に災害が起こった時、言い訳しないで済むように、先端ロボット⼯学技術を社会実装しよう」と、覚悟を決めました。そうして2015年、株式会社人機一体を創業しました。社名にも込めたように、我々が目指すのは「人機」、すな人が操作するロボットです。私はいわゆるガンダム世代で、あの時代の男子小学生は皆、ガンプラが欲しくてプラモ屋に並んだものです。今思えば、子供心に憧れたのは、非力な少年がロボットに乗ることで大きな力を手にするところ。力のある誰かに助けてもらいたいのではなく、自分が強い力を持って、誰かの役に立ちたい。私が思い描く理想のロボットとは、人の能力を拡張してくれる存在です。それをロボット⼯学技術で実際に作ることができたら、きっと世の中を変えられると思いました。そのために開発したのが、独自の「力制御」を可能にする技術です。これにより、人の運動能力をロボットに移し替え、まるで身体が拡張したかのように、ロボットを思い通りにコントロールすることを可能にしました。この技術を用い、西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)と日本信号株式会社と共同で、世界初の高所重作業対応汎用人型重機「零式人機 ver.2.0」の開発に挑戦しました。起業して、研究の枠組みにとらわれることなくロボットの開発に打ち込めることは、非常に楽しいです。もちろんそのためには資金を調達し、それをビジネスにする道筋を作らなければならないという大変さはありますが、それ以上に、先端ロボット⼯学技術を駆使してロボットの社会実装を目指せることに喜びを感じています。しかし、他企業との共同開発は簡単ではありませんでした。最も苦労したのはコミュニケーションです。大企業の立場で効率の良い課題解決を目指すクライアントと、ベンチャー企業として高度な汎用ロボットによる広範な課題解決を目指す我々とでは、目指す方向は同じはずなのに、なかなか話が通じず、意見は対立してばかり。それが解消さアントの社員が人機一体社に出向し、毎日一緒に仕事をするとともに、責任者も毎週のように来社しては、何時間も議論しました。私たちもクライアントの作業現場に足を運び、現場の言葉に耳を傾けました。その中で次第にお互いの仕事をリスペクトする気持ちが芽生え、相手がなぜそんなことを言うのか、相手の都合や考え方を理解し、寄り添えるようになったことで、徐々に力を合わせられるようになっていきました。2024年7月20日、ついに製品版の多機能鉄道重機が営業線での鉄道設備メンテナンスの実作業に導入され、社会実装が現実となりました。2025年4月に開幕する大阪・関西万博で、人機一体社
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