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アメリカのMLB(メジャーリーグベースボール)に属DECEMBER 20244するプロ野球チーム、シアトル・マリナーズで、マニュアルセラピストとして活躍する日本人がいる。山本和広さんは、米国の「アスレティックトレーナー」の資格を取得し、2022年に選手をケアする医療スタッフとして同球団に採用された。仕事では、選手のさまざまな要望に応える技術はもちろん、それ以上に多様な価値観を理解する力や高度なコミュニケーション能力が要求される。山本さんは、そうした力を大学時代から培ってきた。アスレティックトレーナーは、アメリカの大学院で修士号を取得した上で、現地の認定試験に合格しなければ取得できない難関資格だ。山本さんは、大学2回生から、この資格取得を目指せる立命館大学のGATプログラム※を履修した。最初の難関は、英語力の習得だった。「教科書も、授業中も、全て英語。ものすごく大変でした」と振り返る。山本さんは持ち前の行動力で、その克服を図った。「参考書で勉強するよりも、英語を使う環境に自分の身を置く方が、楽しみながら頑張れる」と、大学の国際寮に住み込みスタッフとして入寮。「欧米や中東、アジアなど文化圏のまったく異なる留学生と一つ屋根の下で暮らしました。多文化社会のアメリカで、文化的背景や価値観にとらわれず、『選手が何を考えているのか』に目を向けられているのは、この時の経験があったからだと思います」大学を卒業後、アメリカで大学院を修了した2020年はコロナ禍。あらゆるスポーツやエンターテインメントの興行が中止になり、アスレティックトレーナーとしての就職口もなくなってしまった。しかし山本さんはくじけなかった。「アメリカに来て、ここの人や環境をどんどん好きになっていきました。アスレティックトレーナーも、やってみなければ分からないことがたくさんある。諦める前に、できるかぎり頑張ろうと思いました」と、アメリカにとどまることを決意する。まず約1年間、大学でインターンとして働いた後、収入を得ながら学べる学生兼アシスタントとして、インディアナ州にあるBall State Universityの大学院に入学する。サーカスなどのパフォーマーをケアするアスレティックトレーナーを志望していた山本さんは、その傍らで、ラスベガスのサーカスで活躍するパフォーマーにパーソナルトリートメントを行う機会をつかみ、休みのたびに3,000km以上もの距離を通った。活路を求めて積極的に行動することが、新たな出会いを引き寄せる。シアトル・マリナーズの関係者と知遇を得て、採用面接にこぎ着けた。「GATプログラムで指導を受けた岡松秀房先生から『人脈は、名刺を配ればつくれるものではない。人と会って話をし、なおかつ築いたコネクションを継続していくことが大切だ』と教わりました。それを実践したことが、採用に結び付きました」入団した年、チームは実に21年ぶりにMLB優勝を決めるプレーオフに進出。山本さんも連日ベンチに入り、試合中の選手のケアにいそしんだ。「ベンチの中から数万人の観客が試合に一喜一憂するのを見て、人の心をこんなにも動かすスポーツに携わるのが、どれほど特別なことかを実感しました」2024年シーズンもチームの全試合に同行し、選手のケアを行った。「大切にしているのは、自分の考えを押し付けるのではなく、選手が何を求めているのかをしっかり理解し、それに応えることです。時には選手が自分の体を管理できるようサポートすることも仕事の一つ。『必要なら、何でもサポートするよ』と、常にオープンな状態でいることを心掛けています」と語る。メジャーリーグの競争は厳しい。優秀な選手でも、少し調子を崩すと、マイナーリーグへの降格や解雇されることも珍しくない中で、選手がけがなくシーズンを乗りきり、メジャーに残るのは大変なことだ。「選手が一日でも長く、一試合でも多く、健康な体でプレーし、活躍できるようケアする。それに携われることが、大きなやりがいです」と山本さん。MLBで経験を積んだ今、「場所やジャンルにかかわらず、誰かの役に立つ仕事をしていきたいという思いが強くなった」と言う。これからもアスレティックトレーナーとして選手を、スポーツを支えていく。※ GAT(Global Athletic Training)プログラム: 立命館大学の学士号と提携先米国大学院の修士号を取得し、米国のアスレティックトレーナーの資格を取得することを支援する立命館大学スポーツ健康科学部独自のプログラム©2024 Ben Van Houtenさん(’19スポ健)選手が一試合でも多くプレーする。そこに関わるのがやりがい。シアトル・マリナーズ マニュアルセラピスト 山やま本もと 和かず広ひろ

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