必要な時に借りて、好きな所に返却できるベビーカーAUGUST 20246Babydoor株式会社 代表取締役社長 中なか川がわ 阿あ美みのシェアリングサービスが話題を集めている。駅やショッピングモールなどに設置されたポートをアプリで開けてベビーカーを取り出し、使い終われば最寄りのポートに戻す仕組み。その名も「ShareBuggy」サービスを考案したのが、中川阿美さんだ。2017年、Babydoor株式会社を立ち上げ、ベビー用品のレンタル事業やシェアリング事業などを展開している。「もともとは会社を経営するなんて、まったく考えていませんでした」と中川さん。だがそのベースは大学時代から少しずつ培われていた。映像学部に進学したのは、作品づくりだけでなく、ビジネスの観点からも映像を学べるところに興味を抱いたからだった。3回生からは経営戦略が専門の中村彰憲教授のゼミに所属。卒業論文では「O2O(Online to Offline)」をテーマに研究した。O2Oとは、顧客をECサイトやSNSなどのオンラインからリアル店舗といったオフラインへ誘導するマーケティング手法を指す。「研究を通じて、消費者の購買意欲をかき立て、購買行動を促す上で広告、とりわけ映像の力の大きさを実感しました。後に起業した時、わざわざ中村先生が会いに来てくださって、『研究が役に立ったね』と言われ、当時の自分が想像もしなかった未来にいることを実感し、不思議な気持ちになりました」卒業後はゲーム事業にとどまらず、多様な分野に事業を拡大する企業文化に惹かれ、グリー株式会社に入社。「若くて熱量の高い社員が多く、自分から手を挙げれば、新しいことにトライさせてくれる、そんな環境がありました」。広告事業部で働いていた2年目には、仲間とチームを組んで新規事業を立案し、社内のビジネスコンテストに応募。見事採用され、事業責任者として新規事業の立ち上げに挑戦した。「思い描く事業を数字に落とし込むことからスタート。10億円の売上規模の事業でなければ、会社に認められません。いつまでに黒字化し、どうやって売り上げを伸ばすかを考え、目標達成までの事業計画を作成しました。起業や経営の知識はほとんどゼロの中、まるで千本ノックのように次から次へと難題にぶつかりました。へとへとになりながら、身をもって事業立ち上げのノウハウを学んだことが、今につながっています」と明かす。結局、新規事業の計画は社長を納得させるには至らず、途中で断念することになる。その頃から「新しい領域や事業で世の中に価値を提供し、社会に貢献したい」という思いが強くなっていった。転機は、20代後半に差しかかった頃に訪れた。「同世代に子育てを始める人が増え、初めて知ったのがベビー用品選びの大変さです。ベビーカー一つとっても、子どもに合うかどうか分からないにもかかわらず、最近は高級化が進んだこともあって、気軽に試すこともできません。こうした身近にある課題をどうにか解決できないかと考え、思い付いたのがベビー用品のレンタルサービスでした」と言う。企業を退社し、2017年にベビーベッドやベビーカー、チャイルドシートといったベビー用品を貸し出す事業をスタートさせた。ハイブランドの商品や最新モデルをそろえるなど、ニーズに応えたサービスは、想像以上の反響を呼んだ。シェアリング事業を考案したのも、子育てをする人の声がきっかけだった。「レンタルサービスでは、『今すぐこの場所で借りたい』というニーズに応えられていませんでした。世の中が本当に求めていることをかなえたい。その思いから生まれたのが『ShareBuggy』です。さまざまな理由で子連れでの外出を躊躇してしまう人にこそ、このサービスを利用し、快適な外出を楽しんでほしい」と語る。子育てを巡っては、とかく大変さばかりが強調されがちだ。中川さんはそうした風潮を変えたいと言う。「事業を通じて、子育てが楽しく豊かなものであるという認識をもっと世の中に広げていきたい。それを続けることで、ゆくゆくは少子化解消の一助にもなれるのではないかと考えています」現在「ShareBuggy」サービスに共感する自治体や鉄道会社などが全国に増えている。そうした多くの人と協力しながら、子育てしやすい社会の実現に向け、ますます精力的に活動範囲を広げている。さん(’14映像)楽しく、快適に子育てできる世の中をつくりたい。
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