テーマやムード、ジャンル、曲の長さを選択すると、AIAUGUST 20244SOUNDRAW株式会社 代表取締役社長/CEO 楠くすのき 太だい吾ごがそれに合わせて作曲してくれるAI作曲サービス「SOUNDRAW」。2020年、SOUNDRAW株式会社がリリースした日本発の音楽生成AIは動画クリエイターやプロのミュージシャンなどに支持され、現在までユーザー数を増やし続けている。特徴的なのが、ユーザーの7割以上が北米・ヨーロッパを中心とした海外にいることだ。「最初から世界で戦えるプロダクトをつくりたいと思っていました。音楽は、言語を必要とせず、世界に通じる強みがあります」と語るのは、SOUNDRAWの創業者である楠太吾さん。現在につながる音楽との出会いは大学時代にあったという。ダンスが得意だった兄の影響で大学入学後、ダンスサークル「R.D.C.」に入り、瞬く間に夢中になった。「大学時代はダンス一色。授業の合間や放課後は夜中まで練習に没頭しました。ダンスを通じて音楽に対する感性を育んだことが、今につながっています」と振り返る。仲間とダンスグループを結成し、大学生のダンスコンテストに出場。2度の全国優勝を成し遂げるほど実力をつけた。大学院修了後は、エンジニアとしてメーカーに就職したものの、最初は仕事に本気になれなかったという。そんな楠さんが変わったのは、約3年たった頃だった。「遅ればせながら、自分の人生を真剣に考え、『この仕事は一生かけてやりたいことなのか』と自問した結果、転職を決意しました」。本当にやりたいことは何かを考えた末、新たに定めた目標が「会社を経営する」「世界を股にかけて仕事をする」「世の中に役立つ仕事をする」「クリエーティブな仕事をする」ことだった。そこで「スイッチが入った」という楠さん。見違えるほど一生懸命仕事に取り組む一方で、終業後はさまざまな人に話を聞きに行き、将来につながる人脈づくりに駆け回った。その中で出会ったのが、株式会社阪神メタリックスだ。入社後は新規事業を社長に提案し、新しいプロダクトの開発に挑んだ。「商品企画も開発も、何もかも初めてで、もう二度と経験したくないと思うほどしんどかった」と苦笑いする。情熱と行動力で数々の困難を乗り越え、ようやく完成させたのがダンスに合わせて音を奏でるウエアラブルガジェット「SoundMoovz」だった。海外に販路を開拓するきっかけは、イギリス人のバイヤーから声を掛けられたことだった。最初は「怪しいな」と思ったものの、思い切って香港で催された世界的なおもちゃの商談会に参加した。自らダンスパフォーマンスをしながら「SoundMoovz」を披露したところ、海外のバイヤーに大受けし、アメリカやイギリス、ドイツなどから注文が殺到。最終的に世界17カ国で40万台も売れる大ヒット商品となった。「SoundMoovz」の成功は、グローバルに共通するニーズに応えれば、プロダクトファーストで世界と勝負できるという自信につながった。その一方で「ヒット商品の寿命は短いことも痛感しました。世界共通の課題を解決するビジネスモデルを生み出さないと、勝ち続けることはできないと気付かされました」と語る。この教訓が、次の「SOUNDRAW」開発に生かされている。「SOUNDRAW」の強みは、曲のクオリティーと楽曲をカスタマイズできる柔軟性にある。「開発に2年を費やして楽曲、音質ともにプロが使えるクオリティーを実現しました。またAIに組み込む音楽ジャンルもグローバル市場を想定し、世界で人気のジャンルを充実させることから始めました」。こうした海外を見据えた戦略が的中。2022年に生成AI「ChatGPT」が登場し、生成AIの認知度が高まったことも追い風となり、ユーザー数は右肩上がりに増加していった。「どの国の人かなどは関係なく、誰もが自分でクリエーティブな音楽をつくることができる。そうした社会をつくる一端を担いたい」と未来を描く楠さん。それに加えて「日本経済の振興を支えるようなグローバル企業にしたい」と夢は大きい。そのためにまずは上場を目指すという。楠さんの挑戦は、始まったばかりだ。さん(’12院理工)AI作曲サービスで、世界に挑む。
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