秋葉はESG投資のアAUGUST 202417た情報がまかり通っていることも少なくありません。今後ESG投資の拡大が見込まれる中で、正確な情報を関係者に還元することも必要だと考えていました」と研究の狙いを語る。先に述べたように民間の生損保や共済団体は、保険事業者であると同時に機関投資家という側面も持っている。「生命保険会社の総資産は412兆4465億円(2020年度)。それだけ機関投資家として金融市場に大きな影響力を持っているといえます」最近重視されているESGのテーマを見ると、「環境」では気候変動/GHG排出、再生可能エネルギー、自然災害、生物多様性、「社会」では人権やダイバーシティ、動物愛護、「ガバナンス」では社外取締役の活用や持続可能な事業計画、法令順守、説明責任・透明性などが挙げられている。中でも最も重要なテーマとなっているのが、GHG排出削減をはじめとした気候変動対策への投融資だという。「日本の大手生損保会社も近年、外部環境に対応して運用ポートフォリオを見直し、ESG投資を重視するようになっています」と秋葉。例に挙げたのが、第一生命ホールディングス株式会社だ。同社はPRIに署名し、GHG排出量削減目標を掲げて脱炭素に本格的に取り組んでいる。「同社が保有する上場株式・社債・不動産のポートフォリオにおけるGHG排出量は、2020年の約602万トンから約493万トンと1年間で18%も減少しました」プローチ法を大きく7つに整理している。一つがESGインテグレーションで、投資プロセスに非財務のESG要素を組み入れることを指す。二つ目がエンゲージメント、すなわち議決権行使・株主提案などを通じて投融資先企業に働きかける方法だ。秋葉によると、エンゲージメントの影響力を社会が知るきっかけになった事例があるという。2020年3月、認定NPO法人気候ネットワークが、みずほフィナンシャル・グループ(みずほFG)に対し、パリ協定の目標に沿った投融資を行うための経営戦略を開示するよう求める株主提案を行った。具体的には石炭火力発電に巨額の融資を行っていたみずほFGに、その撤退を迫ったのだ。「提案自体は否決されたものの、35%もの株主が支持を表明しました。このインパクトは大きく、他の金融機関や資源開発会社の脱石炭への動きを促すことにつながりました」その他、国連機関やOECD(経済協力開発機構)、人権NGOなどが策定する国際規範に沿ってスクリーニングを行う方法や、ESGテーマに基づいて投資対象としてふさわしくない企業から投資を撤退するネガティブ・スクリーニング、逆にESGパフォーマンスの高い企業に優先的に投資するポジティブ・スクリーニングもある。さらに六つ目として、再生可能エネルギー事業のようなESGに強く貢献するテーマに投資するテーマ型投資、そして最後に社会的・環境的な影響力を直接生み出そうとするインパクト投資が挙げられた。「ESG投資を行うと収益に響くのではないかという懸念から、日本は長くESG投資に消極的だといわれてきました。しかしESG投資の収益性の高さは、多くの研究で報告されています」と秋葉。それを裏付けるように、PRIは発足以来署名を増やし、2022年10月時点で5220機関が署名するまでに拡大している。民間の生損保や共済団体が今後さらにESG投資を拡大していくことを見据え、秋葉はこう助言する。「PRIに署名した機関投資家は、PRIが定める6原則に基づいてESG投資を行うことが求められますが、その評価基準は年を追うごとに厳格化しています。そうした潮流に機敏に対応していくことが求められます」気候変動対策には莫大な資金が必要とされる。保険業界のESG投資も、脱炭素社会の実現に向け大きなインパクトになり得る。適正なESG投資への道しるべを示すことで、秋葉はそれを後押ししようとしている。 今号は『RADIANT』に掲載された研究内容をご紹介します。脱炭素の取り組みにインパクトを与えるESG投資
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