会報りつめい293号 デジタルブック
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インターネット上につくられた3次元の仮想空間メAPRIL 20246一般社団法人プレプラ 代表理事/株式会社ゆずプラス 代表取締役 水みな瀬せ ゆずさん(’21生命)タバースの活用が今、急速に広がっている。水瀬ゆずさんは、主にビジネスやエンターテインメントの分野で注目されているメタバースをさまざまな社会課題の解決に役立てようと取り組んでいる。社会に目を向けたきっかけは大学1回生の時、SDGsについて学ぶ学園祭「Sustainable Week」の実行委員会に参加したことだった。大学と連携し、SDGsについて考えるイベントなどを企画・開催。「それまで『SDGs』とは、自分の生活とはあまり関係のない、遠い世界の問題だと思っていましたが、活動を通じて自分の好きなことや強みを生かして社会課題を解決していくことが大切だと考えるようになりました」と言う。メタバースとの出合いは、テクノロジー・マネジメント研究科1回生の時だった。最初は興味本位でメタバースの世界に足を踏み入れ、瞬く間にそのとりこになった水瀬さん。特にVRゴーグルを装着して360°映像と音声に没入し、あたかも現実世界のように感じたり動いたりできるのが面白くて、多い時には1日12時間以上もVRゴーグルを着け、メタバースの世界に没頭していたという。「自分がアバターになって仮想空間に入り、ゲームをしたり、世界中の名所を巡ったりといろいろなことができますが、メタバースの一番の魅力は、そこでさまざまな人と出会ってコミュニケーションを取ったり、体験を共有したりすることです。現実の社会で、年齢の離れた人や異なるコミュニティーに属する人と出会ったり、友達になったりすることは難しいけれど、匿名性を確保できるメタバース上なら、年齢や性別、社会的な立場や身体的な特徴などに関係なく、いろいろなことを一緒に体験したり、多様な人と対等に話したりすることができます。それはまるであらゆる違いを超えて、魂同士でコミュニケーションをとっているような感覚でした」その中で一人の高校生と出会ったことが、メタバースを活用した「不登校学生の居場所支援」という世界初の取り組みにつながっていった。「長く学校に行けず、現実世界では家族以外と話すこともなかったその高校生が、メタバース上でさまざまな人と話し、そこに自分の存在を認めてくれる『居場所』を見つけたことで、再び学校に行けるようになったと聞いて、驚きました。メタバースが、単に仮想世界のものではなく、現実の人生に影響を及ぼすようなツールになると思いました」と言う。メタバースの可能性を確信した水瀬さんは、すぐさま行動に移した。臨床心理士や精神科医、教員、弁護士などの専門家の協力を得て、広島市社会福祉協議会に働きかけて支援を受け、2022年、中高生を対象にした「メタバース不登校学生居場所支援プログラム」を立ち上げた。2023年には京都府でも実施。現在は全国にエリアを広げ、新たなプログラムの作成を進めている。活動の幅を広げるとともに、それらを持続的な取り組みにしていくために、一般社団法人プレプラと株式会社ゆずプラスという二つの法人を設立。前者では主に社会福祉、後者では教育に力点を置いて、メタバースを活用した事業に取り組んでいる。「例えば、『健常者』や『障がい者』というカテゴリーは、今の社会生活における分類であって、メタバースやAIの活用が進めば、こうしたカテゴリーも意味をなさなくなります。そんな風に、多様な人の『できること』を拡張し、さまざまなことに挑戦できるよう後押ししたいと考えています」と語る。水瀬さんは、現在取り組む事業活動の先に、さらに大きな夢を描いている。「仮想空間と現実世界をシームレスに行き来できるメタバースのまちをつくりたい。時間や距離などの障壁を超えて、一人ひとりが人生の可能性を広げていける、そんな社会をつくりたいと思っています」と、目を輝かせた。多様な人の 「できること」を拡張する。

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