立命館の研究者たち特別対談たちが地域に誇りを持ち、その暮らしを楽しんでいることにある、ということです。その上で、地域の方向性について共通のビジョンやコンセプトを持って、地域課題の解決に取り組んでいくことが重要だと考えます。大島 おっしゃる通りですね。牧田 日本には魅力的な場所が数多くありますので、観光客を増やすという目的については比較的容易に達成する事ができました。事実、2003年にスタートした「ビジット・ジャパン・キャンペーン」では、ビザ要件を大幅に緩和することにより、訪日旅行者は大きく増加しました。しかし、近年はオーバーツーリズムといった新たな問題が浮上しています。今地域に求められるのは、広い視野でビジョンやコンセプトをつくり、それを実現できる知識とスキルを備えたリーダーとしての人材です。2024年4月に経営管理研究科に新たに開設する観光マネジメント専攻は、そうした人を育成する役割を担えると考えています。大島 一方で地方の観光地には、ヒト・モノ・カネが豊富な観光都市とは異なる課題があります。地方の中小企業や小規模事業者の多くは、日々の業務だけで精一杯で、地域のことまで考える余裕がないのが現状です。地方の宿泊施設では、たとえ観光客が来訪したとしても、人手不足でスタッフがおらず、受け入れられないことも少なくありません。まずはそうした事業者の経営を改善する必要があります。牧田 確かに、都市と地方といった地域の特性によって直面する問題は違いますね。大島 観光業界には、家業として営む中で培ってきた、経験則に基づいた経営を続けておられる事業者が多いように思います。そうした事業者の方こそMBAで経営理論や事例を学ぶことで、多くの改善ポイントを見いだせるはずです。私は熊野本宮大社の近くで、研究の一環として地元の方々と協働DECEMBER 202322立命館大学ビジネススクール(大学院経営管理研究科)大島知典准教授大学院経営管理研究科2017年博士(経営学、立命館大学)専門分野:サービスマネジメント/観光マーケティング牧田 私は立命館アジア太平洋大学(APU)の創設メンバーとして、2000年4月から19年間、大分県別府市で暮らしました。この新しい大学を地域に理解していただこうと、地域の皆さんと交流する中で、やがて地域づくりの活動をお手伝いするようになり、観光に関わるようになりました。八湯から成る別府には、温泉をはじめ豊富な地域資源があります。地域資源を活用した体験プログラムの見本市が「ハットウ・オンパク(別府八湯温泉泊覧会)」です。このオンパクの運営をサポートするなど、10年以上にわたり温泉地再生に取り組んできました。このようにして、別府をフィールドに研究と社会への還元が一体となった取り組みを進めながら、疲弊した地方都市や日本をどう再生させていくのかを考えてきました。大島 私はもともと旅行が好きだったのですが、在学時にツーリズムの授業を受講したのをきっかけに、観光に関心を抱きました。それまでは観光をあくまで“楽しむ”側の視点しか持ち合わせていませんでしたが、観光の研究をし始めてからは常に観光で“生きる”側の視点も含めて観光について考えるようになりました。2011年の紀伊半島大水害の復興事業で和歌山県田辺市を訪れたのをきっかけに、12年にわたって熊野本宮で研究・教育活動を続けてきました。時には観光協会や旅館に住み込みで働いたり、地元の人々と一緒にプロジェクトを企画したりしながら、観光に関わる事業者や従事者、さらには地域が直面するリアルな課題をどう解決するかを考えてきました。現在は、観光の顧客体験価値をいかに向上させるかに焦点を当て、実践的な研究を進めています。魅力ある観光地のベースは そこに住む人が楽しんでいること牧田 「観光」を巡る問題というと、「観光客を呼び込むための観光資源がない」ことが議論の的になりがちです。しかし別府市で地域づくりに関わる中で強く思ったのは、「魅力ある観光地」のベースは、そこで暮らす人観光マネジメント専攻が
元のページ ../index.html#22