京都市の中心地・京都御苑の南側に面する丸太APRIL 20236町通と河原町通の交差点から一筋入った路地に、書店「誠光社」がある。堀部篤史さんが前職から独立し、2015年に開いてから8年を数える。店の書棚には、時代小説の人気作家の随筆集の隣にデザイン画集があったり、海外の推理小説と食に関するエッセーが隣り合わせに並んでいたりと、さまざまなジャンルの本が一見、脈絡なく陳列されている。目当ての本を探しながら、思わずその隣の本も手に取ってしまう。そんな堀部さんがつくり上げた「本の世界」に魅了され、全国から誠光社を訪れる人が絶えない。「今の時代、インターネットで検索すれば、簡単に欲しい情報を手に入れることができます。本を買うだけならこの店に来る必要はありません。だからこそ大切にしているのが、なぜその本を選び、この場所に置いたのかという『文脈』です」と語る。自身の関心や読み方に基づいて、異なるジャンルやテーマの本の間に共通項や関連性を見つけ、つなげていく。いわば堀部さんの「編集」によって、誠光社の本棚は出来上がっている。「自分の中にある経験や知識を生かし、自分しか知らないつなげ方、自分なりの面白がり方を紹介するようにしています」と堀部さん。「お客さまには目的の本を買いにくるだけでなく、来店してから半分能動的、半分受動的に本を見つけてほしい。新たな視点で眺めることで、思いもよらない本と出合うこともできます」と語る。堀部さんの「編集」によって、ネット検索では得られない本との一期一会の出合いがある。それが多くの人を引きつけているゆえんだ。そうした「編集」力を育んだのは、立命館大学に通った学生時代、京都の街だった。立命館中学校・高等学校から立命館大学へ進学。本はもちろん音楽や映画、アートなど、さまざまなカルチャーに夢中になった。「一人のアーティストに心酔したり、一つのジャンルを掘り下げるよりは、多様なものに幅広く接してその面白さや共通点を見つけ出したり、差異をどう扱うかを考えることが楽しかった。1990年代のクラブミュージックと1960年代に演奏された生音を聴き比べて、曲調に似たところを発見したり、1950年代フランスのヌーベルバーグ映画に、最新映画に引けを取らない新鮮さを感じたりしました」。自分が楽しむだけでは飽き足らず、友人と一緒にフリーペーパーを刊行。異なるジャンル・分野の映画や音楽、小説を自分なりの文脈に位置付けて紹介した。授業後は、三月書房やヴァージン・メガストア京都店といった独自のこだわりを持つ書店やレコード店に通い詰める日々。その中の一つが「本のセレクトショップ」の先駆け的存在として名をはせていた恵文社一乗寺店だった。在学中にアルバイトを始め、大学卒業を機に就職。それから長く店長を務め、理想の書店を経営する難しさを身をもって知ったことが、自分の書店を作ることにつながったという。従来の書店のビジネスモデルでは、自分の売りたい本だけを販売して経営を成り立たせるのは容易ではない。「本は利幅が小さいから、利益を確保するために売れ筋の本を販売したり、雑貨販売やカフェのスペースを併設したりして複合化せざるを得ません。そうしていくうちに、もはや自分の店ではなくなってしまいます」。「自分の店」を作る時、改めてこれまでの歩みを見直すことになった。「最初から『こんな店が作りたい』という夢があったわけではなく、自分の好きなもの、琴線に触れたものに没頭していたら、結果的にこの店ができました」書店と出版社の間で流通を担う「出版取次」を介さず、出版社から直接仕入れることで利益を確保するなど、常に新しい本屋のかたちを模索している。売り上げを増やすことでビジネス構造の矛盾を克服しようとするのではなく、構造そのものを変えようというのだ。嗜好性の高い本を置きつつ、買ってもらえるよう自分の知識と言葉でその魅力を説明する。近年は書籍の編集・出版まで手掛けることも増えてきた。「どうすれば著者の表現したいことがお客さまに伝わるか、その解釈をするのが私の役割なんです」。今後堀部さんがどのような編集で誠光社の物語を紡いでいくのか楽しみだ。さん(’00文) 独自の「編集」で新たな本との出合いをつくる。誠光社 店主 堀ほり部べ 篤あつ史し
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