国籍や信仰、セクシュアリティ、障がいの有無や体morning after cutting my hair, Inc. 代表取締役APRIL 20234/SOLIT,Inc. 代表取締役 田た中なか 美み咲さき形に関係なく、あらゆる人が気持ち良く着られる服を提供するアパレルブランド「SOLIT!」。「必要な人に、必要なものを、必要な分だけ」届けるという信念のもと、一人ひとりの好みや身体の特徴に合わせ、細かくカスタマイズできる受注生産制。原料調達から生産、購買者に商品が届くまでサプライチェーンに関わる人や環境にも配慮して服作りを行う。SOLIT,Inc.の代表取締役を務めるのが田中美咲さん。多様な人や動植物、地球環境も含め、あらゆる存在が健全に共存できる「オール・インクルーシブ(All inclusive)」な社会の実現をビジョンに掲げ、2020年に起業した。「今の自分が想像できないような将来を見つけられる大学がいい」。立命館大学に進学したのはそんな想いからだったという。大学時代は、産業社会学部のエンター団や自治会の活動に熱中した。それまで自らがリーダーシップを発揮して、周囲を引っ張っていくタイプだった田中さんにとって、多くのメンバーと議論を重ねながら物事を進めるのは、初めての経験だった。「多様な人がいて、多様な考え方や意見があること、必ずしも自分の考えが正しいとは限らないことを実感しました。何より多くの人の意見を聞くことで、自分一人では考えの及ばない、想像を超えたところにまでたどり着ける。それがすごく面白いと思いました」人生が大きく動いたのは、卒業を目前に控えた2011年3月、東日本大震災だった。「助けを求めている人がいるのに何もしないなんてありえない」。その気持ちに突き動かされて、IT企業で働きながら週末に福島県に通い、復興支援活動に関わるようになる。ついには会社を辞めて福島県に移住。仲間とともに一般社団法人防災ガールを立ち上げた。「次の被害を生みたくない。そのためにとりわけ若い人たちに防災の重要性を訴えたいと考えました。頭ごなしに言っても受け入れられないと思ったので、ゲームや本、プロダクトの形にしたり、若者の間ではやっていることに『防災』という概念を結び付けて伝えることを心掛けました」。活動は反響を呼び、事業は成長していったが、田中さんの中では次第に葛藤が大きくなっていった。「『防災のことは防災ガールに』と言われるくらい私たちの存在は浸透しましたが、それが逆に、他の人に活動が広がる妨げになってしまっていると感じたからです。それでは意味がないと思いました」。2020年、ノウハウを受け継ぐ団体に事業をバトンタッチし、活動に区切りをつけた。「やってきたことに手応えはあったけれど、世間の人たちのアクションにつなげることはできなかった。社会を変えるところまではたどり着けなかったという心残りがありました」。そんな思いから改めて社会課題と向き合うべく設立したのが、現在経営する二つの会社だった。「どうやって社会を変えるかと考えた時に着目したのが、ファッションでした。『かわいい』『おしゃれ』って、人の心を動かす上でとても重要です。それに文化や習慣を変えるには、何十年、何百年もかかるけれど、ファッションなら1年に何度も変えるチャンスがある。そのスピードも魅力でした」と語る。会社には個性豊かなメンバーが集まる。互いの「違い」を受け入れながら仕事ができるのは、大学時代の経験があったからだという。「SOLIT!」をスタートして2年、「こんな服が欲しかった」と涙を流して喜ぶ人を数多く見て、「共感や感動の力で人の心を動かし、未来を創っていきたい」という想いを強くしている。SOLIT,Inc.で自ら実践するとともに、morning after cutting my hair, Inc.では社会課題を解決したいけれど何をしたらいいか分からないと悩む企業や団体の支援に取り組む。「依頼を受けた時、クライアントに言われたままのことをすることはまずありません。じっくり話を聞いて、本当にやりたいことなのか、10年後も続けたいと思えるかなどと深く問いかけ、本当にやるべきことを一緒に探します」。表層的なPRやコンサルティングにとどまらず、クライアントのパーソナルな部分にまで迫り、「家族」のような気持ちで未来を考える。その姿勢が相手の心を動かすという。「社会を変えられる。そう信じられることを見つけた」と楽しそうに笑った田中さん。二つの事業をこれから100年続けていくにはどうすればいいか、ワクワクしながら考えている。さん(’11産社) 感動の力が人の心を動かし、 社会を変える。
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