デジタルブック290号
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APRIL 202310ちが強くなっていきました。一視聴者からバラエティー番組を制作する立場になって、改めて実感したのが、お笑い芸人さんの「すごさ」です。「こうなったら面白いな」と期待して書いた台本を軽々と超えて、現場で笑いを生み出すところを目の当たりにし、尊敬の気持ちはますます大きくなりました。現場が盛り上がるほど、後の編集作業には苦心します。ただ決められた時間に収まるよう場面ごとに映像をカットするのは簡単ですが、それでは笑いの濃度が薄まってしまいます。ディレクターになったばかりの頃は、決められた尺に収めることに気を取られ、よく先輩に「そんなことをしていたら、出演者の信用を失うぞ」と𠮟られました。今、大切にしているのは、現場にあった「面白い空気感」を損なわずに編集すること。「これだけ笑いを取ってくれたんだから、それをちゃんと視聴者に届けたい」と思い、徹底的に突き詰めます。「この番組のスタッフは笑いを見落とさずに使ってくれるな」と認めると、出演者は次の収録でも力を発揮してくれます。この信頼の積み重ねが、面白い番組につながっていくことを実感しました。ディレクターになって数年、30歳を過ぎた頃から自分で企画し、番組をつくることも増えていきました。ゼロから1を生み出し、世に届けることがそれはもう面白くて、「これがやりたかったんだ」という思いを強くしました。番組をつアイデアを蓄積するために普段からバラエティー番組を全て録画し、話題になった番組は必ずチェックします。日常生活でも常にアンテナを張り、面白いと思ったことは、すぐメモするようにしています。そうした日常から生まれた番組が『ヤギと大悟』でした。きっかけは、小学校に通う子どもが学校で飼っているヤギを世話する「ヤギ当番」になったことでした。その様子を見に行った時、ヤギが驚くほど雑草を食べている姿に、思わず笑ってしまいました。ヤギの周りに子どもたちが集まって、まるでアイドルのような人気です。そこから浮かんだのが、ヤギが雑草を食べながら散歩するという番組のアイデアでした。「ヤギを連れて歩く相棒は絶対にお笑いコンビ千鳥の大悟さんがいい」と思い、『ヤギと大悟』というタイトルまくっていて、とりわけ気持ちが高まる「沸点」が三つあります。一つ目は、企画書を完成させ、「これは絶対に通る」と手応えを感じた時。二つ目は企画をプレゼンし、尊敬する芸人さんに「面白い」と思ってもらえた時。そして三つ目は、番組をつくって放送した後、「面白かった」という視聴者の声に触れた時です。とはいえ企画を生み出すまでは、苦しいこともたくさんあります。「新しいものを生み出したい」と考えあぐね、何一つ思いつかないまま数時間、時には数日たってしまうことも少なくありません。その上、番組改編時期に出されるテレビ局の企画募集には、200本以上も殺到します。その中で採用されるのは、わずか数本。練り上げた企画を提出しても、採用されないことの方が多いのが現実です。『ヤギと大悟』©テレビ東京ゼロから企画・制作する面白さに熱中

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