会報りつめい289号 デジタルブック
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パソコン、スマートフォン、スマートウォッチなど、世ⓒJaroslav OlejarDECEMBER 20226界中で愛されるデジタル製品を生み出しているアップル。峯村涼子さんは同社が運営するアプリケーションソフトの配信サービス「App Store※」等のサーチアナリストとして働いている。アメリカ本社で、このポストに就く日本人は峯村さんただ一人だ。「プレッシャーはとてつもなく大きいけれど、それだけ価値ある存在だと認められることが、やりがいでもあります」と語る。「好奇心の塊で、新しいことにチャレンジする意欲は人一倍ありました」と振り返った峯村さん。そのバイタリティーで道を切り開いてきた。高校時代の夢は、国際公務員かジャーナリストになって世界の平和に貢献すること。そのために「絶対に学びたい」と志望したのが、立命館大学国際関係学部だった。大学では取れる授業は全て履修し、いつも一番前の席で食い入るように聴講した。とりわけ熱心に学んだのが、関寛治教授(当時)の「シミュレーション・ゲーミング」の授業だっふんた。「学生がそれぞれ国の代表に扮し、ロールプレーイングで国際政治や外交を疑似体験します。自分の国や相手国について調べた情報をもとに、交渉したり議論を戦わせながら、平和な決着を目指します。実践を通じて国際政治学の知識を身につけたことはもちろん、リサーチ力やディベート力、交渉力など、今につながる力が鍛えられました」。4回生でアメリカのピッツバーグ大学に留学。国際公務員を数多く輩出する大学で、各国から派遣された学生も多く学んでいる。そうした学生とともに学び、ディベートもプレゼンテーションも太刀打ちできないことを痛感したという。「国際舞台で働きたいなら、このままではだめだ」。そう思い、大学卒業後に再び渡米し、ピッツバーグ大学の大学院に進学した。それまでいちずに国際公務員を目指してきた峯村さんだったが、大学院で学ぶ中で、次第に別の方法で世界に貢献する道を考えるようになる。大学院修了後、培った知識やスキルをビジネスの世界で生かそうと、「力試しのつもりで」世界的な先進企業が集積するシリコンバレーへ向かった。日系の大手電機メーカーに就職し、約7年間、戦略企画や内部監査などの業務に携わった後、「もっと自分が働く価値を感じられる仕事をしたい」と転職を模索する。その時に出会ったのが、アップルだった。とりわけ峯村さんの心を捉えたのは、創業者の一人であるスティーブ・ジョブズが提示した“Think Different”という一節だ。「日本やアメリカ、あるいは他の国から見える世界や求める幸せは全然違います。そうした多様な視点を認めながら世界を変えるという考え方に共感しました。この会社ならデジタル製品をつくるだけにとどまらないことに挑戦できる。そんな可能性を感じました」難関を突破し、最初に配属されたのは、「App Store」の立ち上げチームだった。前職での内部監査の経験・スキルを買われて担当したのは、アプリ開発企業が提供するアプリケーションを審査し、採用の可否を判断する業務。「世界初のサービスを世に送り出すため、それまで世界になかった新しい職業に飛び込んだ気持ちでした」。その後ステップアップを試み、社内試験を経て獲得したのが今のポジションだ。ユーザーが検索ボックスに文字を入力した時、探したい商品群が適切な優先順位で表示されるよう、検索エンジンは改変し続けられている。どのような商品が人気を集め、どのようなワードが頻繁に検索されるかは、国や時流によって変わる。ユーザーの検索結果を分析し、それに基づいてプログラマーにアルゴリズムの修正を指示し、検索エンジンをブラッシュアップしていくのが峯村さんの役割だ。「日本語や日本について知らないプログラマーに改変点を理解してもらうには、客観的なデータをもとに説明する必要があります。先進の技術を動かすのは、人を納得させるプレゼンテーション力です」と語る。分析やプレゼンテーションを行う際、必ず自らに問いかけているのが、自分の考えや行動は「世界の全ての人に受け入れられるものか」ということだという。「私のチームは全員アメリカ以外から来た社員です。担当は国籍や人種ではなく、何語が得意かといった『言語』で分けられます。国も人種も関係ない。この価値観を世界に届けているからアップルが好きなんです」と笑う。アップルで見いだしたこの価値観を若い人に伝え、次代を担う人材を育てることに関心が出てきたという峯村さん。現在さまざまな機会に自身の経験を伝える活動にも積極的に取り組んでいる。「たとえ国は違っても、世界中の人と同じゴールを目指していることに気付けば、世界から争いはなくなるはず。そう信じています」。最先端のデジタルテクノロジー企業で「世界の平和に貢献したい」という夢を今も追いかけている。 PROFILE長野県出身。1997年国際関係学部を卒業後、在学中に交換留学で1年間学んだピッツバーグ大学の大学院に進学。修了後、日系電機メーカーのアメリカ支社での約7年間の勤務を経て、Apple Inc.へ。現在、アップル本社で検索アルゴリズムのパフォーマンスを審査するサーチアナリストとして勤務。※App Storeは、Apple Inc.のサービスマークです。

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