会報りつめい289号 デジタルブック
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2022年6月、「まとめる、書く、読む、話す」といった高DECEMBER 20224度な知的作業を人間並みに実現する日本語AIが登場し、世間を驚かせた。「大規模言語AI イライザ」は、キーワードを入力するだけで自然で流ちょうな文章を自動で作成したり、ニュースやレポートなどの読解力を要する文章を読んだり要約したりできる。開発したのは、AIベンチャー企業の株式会社ELYZA(イライザ)。2022年4月、野口竜司さんはELYZAの取締役CMOに就任した。目の前に訪れたチャンスを確実に掴み、そこに自らを投資する。野口さんが切り開いてきたキャリアには、大学時代の出会いや経験が色濃く反映されている。「文系・理系といった学問分野に縛られず、学びたいこと全てを学ぶと決めていた」という野口さんが選んだのは、開設まもない政策科学部だった。「特に良かったのが、ケーススタディーを通じて課題を発見し、それを解決する力を磨けたことです。ビジネスでは課題があって当たり前。それを解決するために動くという思考を身に付けられたから、仕事で困難にぶつかって踏ん張ることは何度もありましたが、それを苦しく感じることはなかったです」。普及し始めたばかりのインターネットに触れたのもこの頃だ。「ゲーム理論」を用いてマーケティングを研究するゼミに所属し、コンピューターを使って人の行動を予測するなど現在のAIにつながる技術を学んだ。何より刺激を受けたのが、友人たちの存在だった。「政策科学部には、新しいことに目をキラキラ輝かせてチャレンジする人が全国から数多く集まっていました。先例にとらわれず、自分の信じた道を自由に突き進む友人たちの姿に、本当にやりたいことを見つけ、自分でレールを敷いて歩いていいんだと勇気づけられました」。3回生の時、ソニーミュージック主催のデジタルアートのコンテストで入賞したことを機にデジタルアーティストとして活動。その後、創業まもない京都発ITベンチャーの株式会社イー・エージェンシーに誘われ、在学中から働き始めた。同社に勤めた19年間、eコマースやレコメンドエンジンなどAIを活用した数々の新規事業の責任者から子会社の代表取締役社長まで、その時々自分が求められている役割を引き受け、多種多様な仕事を経験した。新しい技術を知り、活用する喜びを感じながら、著しい進化を遂げるAI活用分野で力を発揮してきた。転機は2019年、大学の後輩で株式会社ZOZOテクノロジーズ(現・ZOZO NEXT)の代表を務めていた金山裕樹さんから誘われたことだった。「もっと巨大なマーケットで『データ活用』を行い、良い意味で社会に波風を立てたい」と、転職。購買データを用いた顧客の購買行動の分析や、新たな予測AIの開発などに携わった。「AIを活用して大多数の消費者とインタラクションし、消費者の行動に変化をもたらす。そんな仕事に思いきり打ち込み、『データ活用』によって社会に影響を与える手応えを感じた体験は、大きな資産になりました」一方でAIを使って仕事をしながら強く感じていたのが、「AIを活用する人材」の必要性だ。「AIを社会に実装していくためには、AIをつくる人材とAIを使いこなす人材の両方が必要です。AI技術の進化は加速しているにもかかわらず、それを活用する人材はまだまだ足りません。理由の一つは、AIの『使い方』を学べる教材がないことです。私自身も教材がなくて困ったことから、独学で蓄積した知識を皆さんに提供しようと思いました」。「文理融合のAI人材の育成」を自ら発起して、社内に学習コミュニティーを立ち上げ、Zホールディングス内で800名に及ぶ社員にAI活用教育を実施した。そして今、ELYZAでは、これまで以上に「AIを社会実装する」ことに軸足を置いている。「機械にはできないといわれてきた高度な知的業務をAIが行えるようになることで、一人ひとりの生産性が向上し、ひいてはGDP向上にもつながると考えています」と言及した野口さん。その半面、AIが人間の知能をしのぐ未来に、人の活躍する余地はあるのかと自問することもある。「人間の専売特許だと思われていた高い知性が機械として生まれ、人の横に並んで仕事や生活をするようになる。世界が変わると思わざるを得ません。そうした世界では、文系・理系に関係なく全ての学部・学問領域でAIの学びが必須です。自分の専門領域を学びながら、そこにAIを掛け合わせたら、どのような変化を生み出せるのか、ぜひ自分ごととして考えてほしいと思っています」と語る。「新しい技術が出てきた時に重要なのは、すごいところを認めてそれを知り、使いこなすこと。子どもたちの未来のために、人間を超えるAIを前に燃え尽きてしまうのではなく、『活用したい』という意欲の火をともすことも私の役割だと思っています」。後に続くAI活用人材の育成に、新たな情熱を燃やしている。PROFILE福岡県出身。2000年、立命館大学4回生の時に株式会社イー・エージェンシーに入社。同社取締役、子会社の代表取締役社長などを歴任。2019年、株式会社ZOZOテクノロジーズ(現・株式会社ZOZO NEXT)入社。取締役CAIO、Zホールディングス株式会社の「Z AIアカデミア」幹事を経て2022年4月、株式会社ELYZA 取締役CMOに就任。著書に『文系AI人材になる 統計・プログラム知識は不要』(東洋経済新報社、2020)がある。

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