DECEMBER 202210「カタリスト」の仕事にガイドラインはありません。仕事を始めたばかりの頃は、何をすればいいのかも分からず、重荷に感じていました。けれど実際にやってみると、大学時代にやっていたものづくりと似ていることに気付きました。映像サークルでは、文系・理系を問わずさまざまな学部の人と一緒に映像を制作していました。チームの中でどのように振る舞うか、人とどうコミュニケーションを取り、プロジェクトを進めるか、規模は違うけれど、大学で同じような経験をしてきたことが役立ちました。ルールがないために、失敗したこともあります。入社2年目のことです。その頃には仕事も覚え、自分で企画資料を作ってプロジェクトを進めるようになっていました。資料作成も自己流。私のこだわりは、格好良くて知的に見えることでした。ところがどんなに力を入れて資料を作っても、望月ゼミで共に学び、今は同じオフィスで働く松岡正さんとオムさん思うように制作が進みません。メンバーにじっくり話を聞いて初めて私の意図が伝わっていないことが分かりました。同じ頃、当社の代表から「大切なのは、いろいろな人に見てもらうにはどうしたらいいかを常に考えること」と言われたことが、胸に響きました。プロジェクトに関わるメンバーは日本人ばかりではありません。多様なメンバーに理解してもらうためには、英語で書くとか、テキストだけでなく図やイラストを入れるなど、工夫する必要があります。さらには一度つかんだノウハウを繰り返して使える「汎用的な知」にするよう意識することも学びました。「分かりやすく、そして繰り返し使える表現」を徹底して考えるようになったのは、それからです。今は世界各国でアート展示を行うことも多く、国や文化が違う人に向けて作品を制作する時にも、この経験が生きています。入社4年目からは、チームラボのアート・展示カタリストチームの中で私は「運動の森」というプロジェクトを担当するようになりました。展示するのは、「体験」そのもの。人は頭で考えるだけでなく、筋肉から内臓、細胞まで、身体のあらゆる器官を使って膨大な情報を処理しています。身体性を感じさせる作品を通して、高次元で世界を捉え、世界を立体的に考える体験をしてほしいと考えています。情報を複雑化・高次元化できるところがデジタル技術の強みです。例えば手でモノをたたいたり、足で踏んだりすることで映像が変わると、一つの動作で終わるのではなく、そこから次のストーリーを生み出すことができます。一回たたくより、連続してたたく方が面白い、何人かで協力して取り組んだ方が楽しい。そんな風に身体性をより高められる作品をつくろうと、日々試行錯誤しています。身体を使って体験する作品を手がけた初めてのプロジェクトは忘れられません。企画したのは、トランポリンを使った作品です。私たちは、子どもたちに、飛び跳ねるという身体運動を通して他者と影響を及ぼし合う感カオスの中の秩序と平和が 子どもたちを笑顔にした
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