会報りつめい288号 デジタルブック
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石いし川かわ 幸さち子こ国際関係学部 も石川は振り返る。「冷戦後、急速にグローバル化が進む中で、感染症や犯罪など望ましくない『脅威』も国境を越えて拡大していきました。また国家間の紛争に加えて、民族闘争など国内紛争が深刻化。従来のように政府が自国民を外敵から守る『国家の安全保障』という概念では、国内で弾圧を受けている人たちを守れないという問題も出てきました」と背景を語る。そんな中、1994年に国連開発計画(UNDP)が出した「人間開発報告書」で、「国家の安全保障」を補完するものとして登場したのが「人間の安全保障」という概念だった。石川によると、「人間の安全保障」という概念はその後国連の中で二つに分かれて議論が展開していく。一つは狭義の「人間の安全保障」で、もう一つは「保護する責任」という概念に発展していった。「1994~99年にかけてルワンダやボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボで起きたジェノサイドをきっかけに、国連では『国際社会は内政不干渉を理由にそれを見過ごしていいのか』という意見が噴出。そこから『保護する責任』の議論が始まりました」。2001年に出された「ICISS※報告書」には、どのような時に内政不干渉の原則が国際社会の「保護する責任」に取って代わられるかが明示されている。ここで「保護する責任」の履行を判断するのは、またしても安保理だ。「2005年の国連総会決議において、さまざまな非人道的な罪から人々を保護するのは『国家固有の責任』であるとしながら、国家がそれに失敗している場合は、『安保理決議』に基づいて集団安全保障措置が実施されることが確認されました。さらに近年は、『国際社会の支援』によっ※ICISS:カナダ政府によって設置された「介入と国家主権に関する国際委員会」て、軍事介入に至る前に解決することに力点が移ってきています」。しかし拒否権を持つ常任理事国の存在や、各国の思惑などによって、「保護する責任」の下での軍事介入や国際社会の支援も実現できない現状がある。紛争に対して国連が十分に役割を果たせていない中にあって、とりわけ安全保障分野で国連の改革は可能だろうか。「難しい問題だ」と石川は言う。これまでも何度となく安保理改革は試みられてきたが、実現には至っていない。「安保理の常任理事国が紛争の当事者になるという事態が起こっている今、少数の大国に大きな権限を与えるような機構は、もはや永続的な正当性を維持できなくなっているという指摘が出てもおかしくありません。ロシアのウクライナ侵攻は、明らかに国際社会のパラダイム・シフトであり、20世紀半ばに創設された国連が、21世紀の問題にどう対応できるのかという正念場にあります」と指摘した石川。「これを対岸の火事としてではなく、今後の私たちの平和で安全な暮らしに大きく関わる問題として捉え、注視していかなければなりません」と強調した。AUGUST 202213立命館オンラインセミナー講義 「現代社会を読み解く 国際連合と国際紛争―『人間の安全保障』の現在」(2022年3月25日)より内容を抜粋(一部加筆)立命館アカデミックセンター(略称:ACR)は、学びを求める全ての人に開かれた拠点として、2015年にスタートしました。2020年8月からは、どなたでも・どこからでもアカデミックな講義を受講いただける「立命館オンラインセミナー」を展開。現在、「現代社会を読み解く」「SDGsを考える」「日本史探究」など、皆さまの学びのニーズにお応えする講義を開講中です。詳しくは、ACRホームページをご覧ください。▶http://www.ritsumei.ac.jp/acr/専門領域は平和と開発、およびASEAN地域研究。1985年から1992年まで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)勤務。その後、笹川平和財団南東アジア協力基金、独立行政法人国際協力機構(旧国際協力事業団JICA)タイ事務所、 マレーシア事務所勤務を経て2005年から2021年3月までJICA国際協力専門員(平和構築、ASEAN協力担当)。2021年4月より現職。 教授安全」を守れるか?

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