会報りつめい288号 デジタルブック
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世界の「安全保障」に関する紛争解決の際、しばしば問題になることがある」と言う。それは「実質的事項の採決に常任理事国5カ国を含む9カ国の賛成が必要」なことだ。「常任理事国が一国でも『拒否権』を行使すれば否決されてしまうため、現実にはなかなか採決に至りません」。ウクライナ問題においても、2022年2月25日に安保理の会合が開かれ、ロシアに対して軍の即時撤退を求める決議案が提出されたが、ロシアが拒否権を行使したため採択されなかった。今回、こうした安保理の膠こう着ちゃく状態を打開するために招集されたのが、緊急特別総会だ。「今回の招集の発端となっているのは、1950年に国連総会で採択された『平和のための結集決議』です。安保理で議論が行き詰まった時、安保理から総会にバトンを渡し、国際の平和と安全についての議論を進めるために出されたのがこの決議でした」と石川。しかしこれも万能の解決策とはいえない。総会の決議に法的拘束力はないからだ。ここからも国際紛争の決着を政治的につけるのがいかに難しいかが分かる。「国連には総会や安保理の他、国際司法裁判所、人権理事会、人権高等弁務官事務所(OHCHR)などの機関があり、司法的解決を模索したり、ロシアの人権侵害の状況を調査したりしています。また、政治的決着が困難を極める中で、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国連世界食糧計画(WFP)のような人道支援機関の役割が大きくなっています」と石川は解説する。概念は、これまでどのように変化してきたのかについてAUGUST 202212立命館の研究者たち問題が深刻な局面を迎える中、国際連合(国連)の役割について改めて議論が高まっている。30年以上にわたって国際機関とODAを通じて人道支援や開発援助に携わってきた石川幸子も、今回の問題に対する国連の動向を追いながら、国際紛争に対する国連の在り方について今一度考えを巡らせている。「そもそも国連の目的は、国連憲章の第1章第1条に掲げられている通り『国際の平和と安全の維持』にあります」と石川は説明する。国連には、不当に平和を破壊した国に対してその他の国々が集団で制裁する「集団安全保障」の体制が想定されている。そしてこの「国際の平和と安全」に関して巨大な権限を持っているのが、「安全保障理事会(安保理)」だ。「紛争の平和的解決」が不可能となった場合は、安保理が経済制裁を行うか、あるいは軍事制裁を行うかを決定する。とはいえ国連は自前の軍隊を持たないため、軍事的措置を行うとなった場合は、安保理が加盟国に武力行使の権限を「授権」する形で実行することになる。安保理は現在、常任理事国5カ国と非常任理事国10カ国の15カ国で構成されている。石川は「安保理による国際紛争に対する国際連合の役割を考える国際紛争から「人間の2022年2月以降、ウクライナ

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