会報りつめい287号 デジタルブック
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│巻頭特集│挑戦を続けるAPRIL 20224さん(’15映像)わけではありませんでした」。そう振り返った 小島裕さん。立命館宇治高等学校から立命館大学に進学する時に、映像学部に興味を引かれたのも、「ものをつくるのが好きだから」というシンプルな理由だった。「でも入学してみると、周りには『映画監督になりたい』などといった明確な目標を持った友達が大勢いて、何も目的を持っていない自分に焦りを感じました」と言う。そんな小島さんが心を引かれたことが二つあった。一つは、映像制作サークル「GREENS」の活動だ。「画角の中にどのような絵を描くか、『絵作り』の技術などは今も役立っていますが、それ以上にみんなで映画を作ることが楽しかった。ものづくりに対する感性を磨くことができました」もう一つが2回生の時に受講したCGの授業だ。「映像制作に役立つかも」と軽い気持ちで受講したが、たちまちのめり込んだ。小島さんを魅了したのは、「ゼロから一」を創り出すところだった。「物質的な制約のある実写と違い、CGはどんなシーンも想像通りに描き出すことができます。まるで神様になったみたいに映像を創造できるところが面白かった」と語る。3回生からはCG制作のゼミに所属。CGアニメーションのショートフィルムを制作する課題に取り組む中で、次第に自分の「足りないところ」が見えてきて、「アニメーションの技術を専門的に学びたい」という思いが膨らんでいった。大学卒業後、小島さんが進学先に選んだのは、カナダの映像専門学校Vancouver Institute of Media Arts。バンクーバーは、CGの最先端技術が集結する場所として知られている。それに加えて「将来はいろいろな人とものづくりがしたい。そのために英語を話せるようになりたいという気持ちもありました」とカナダ行きを決めた理由を語る。そこで1年間、英語に悪戦苦闘しながらCGアニメーションに関わる専門的で多様な知識・技術を身に付けた。世界中から映像のスペシャリストが集まる、実力がものをいう場所。専門学校を卒業後、カナダでの就職を目指したものの、実績のない小島さんには簡単なことではなかった。最初はどの会社にも相手にされず、半年間の就職活動を経てようやくEncore VFXというドラマの制作会社に就職。そこでハリウッドの大作映画の制作に関わるチャンスをつかみ、その実績が評価されてモントリオールにある大手映像制作会社のMPC filmへ入った。そこでの3作品目の仕事が、2021年公開の超大作『ゴジラvsコング』だった。小島さんは、夜の大都会をバックにゴジラとコングが格闘するシーンのCGアニメーションを担当。「キャラクターの動きから構図、カメラワークまで任されました。特に苦心したのは、重量感やスケール感を出すこと。どうしたら2体が格好良く見えるか。スタッフにバトルシーンのアクションを実演してもらって、足の運びや負荷の掛かり方を確かめたり、ゴリラや爬はちゅう虫類の動画を見て、動きを観察したりしながらアイデアを練りました」。数カ月間、細かなところまで作り込んだかいあって、2体が威嚇し合い、ぶつかり合う迫力満点のシーンが完成した。「自分が作ったシーンを映画館の大画面で世界中の人に見てもらえるのはやっぱりうれしい」と小島さん。エンドロールに自分の名前が流れた時には充実感が胸にあふれた。現在はバンクーバーを拠点に、世界的なVFX制作会社Framestoreで、再びハリウッドの大作のCGアニメーションを手掛けている。どんなにダイナミックなアニメーションも、最初は生気も個性もない人形を作ることから始まる。「人形にどんな表情を付け、どう動かすか。アニメーターのアイデア次第でキャラクターに血が通い、物語が動き出します。そのアイデアを形にする最初の一瞬、まさにゼロから一を創り出す瞬間が何より楽しい」と小島さんは言う。初めは目標や目的はなかった。しかし目の前にある、心から「面白い」と思ったことに全力で挑んできた先で、想像もしなかった大きな世界と出会うことになった。「今度はフルCGアニメーションの作品の制作に携わってみたい」。次の目標を見据えて、目を輝かせた。最高峰が集結する場所で、ハリウッド超大作を手掛けるCGアニメーターに。小こ島じま裕ゆうCGアニメーター「アニメーションや映像に強い思い入れがあった

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