PROFILE株式会社山岡白竹堂 代表取締役山岡 憲之さんまた扇子は洋装や流行のファッションとも合わせられることを多くの方に知っていただきたい。その想いから2018年、夢だった扇子のファッションショーを開催。トレンドの洋服に身を包み、扇子を手にしたモデルが百貨店のエントランスホールのランウェイを歩き、大きな反響をいただきました。コロナ禍に見舞われたのは、気持ちも新たに次のステージへ挑戦していこうとしていた矢先のことです。売り上げは大幅に減少。八坂神社近くの直営店は閉店したまま再開のめどは立っていません。しかし苦しいからといって、じっとしていられないのが私の性分です。これまで時代に合わせて新しいものを作ってきたように、今の状況に合った商品を作れないかと知恵を絞り、思いついたのが、口元にあてて使う「お口元扇子」でした。アイデアの元になったのは、「五ご明めい扇せん」という伝統的な扇子。五本の骨組み、長さ五寸(約15cm)ほどの小さい扇子で、あおぐというより掲示や品書き、手紙などをしたためるものとしてよく使われます。当社では、年賀状として新年のごあいさつを書いて、親しい方々に配っていました。五明扇なら口元を覆うのにちょうどいいサイズで、開いたままテーブルに置いても邪魔になりません。食事の席でマスクを着け外しする代わりとして手軽に使っていただければと考えました。扇子の両面に抗菌・抗ウイルス加工を施した上で、何より楽しんでいただけるよう多彩なデザインを用意。2020年12月から販売しています。過去をさかのぼれば、今以上の困難も数多くあったに違いありません。どんな世の中でも、今を生きる人たちに喜んで使っていただける扇子を作る。その積み重ねが300年の歴史になったと思っています。これからも大変な時ほど新しいことに挑戦し、活路を見出していくつもりです。今、当社が多くの人に支えられて成り立っていることを改めて強く感じています。扇子の製造を担う職人も不可欠な存在です。扇子の製造には88もの工程があり、それぞれを専門の職人が手掛けています。どの工程が欠けても扇子を完成させることはできません。こうした職人と技を守っていくことも当社の使命だと考えています。一方で、扇子は将棋や落語、日本舞踊、お茶などさまざまな文化・芸事と深い関係があり、これらが失われると扇子も廃れてしまいます。コロナ禍で当社だけでなく、関わりのある他の業界も苦しい状況に置かれています。少しでもその方々の役に立てればと、京都の五花街に500本の扇子を寄贈しました。最近は立命館大学との縁を感じることも多くなりました。仕事を通じて異業種の経営者と親しくなり、立命館大学の卒業生同士と知って驚くこともあります。京都の会社として、また卒業生として、立命館大学と縁のある方々とビジネスで関われることが喜びです。泉谷しげるさんとの出会いから音楽と扇子という思いもよらないコラボレーションが生まれたように、今後も好きなことから新しい市場をつくっていきたい。一方で、当社の根幹である京扇子も大切に守っていかなければなりません。これからも新しいものと伝統の両輪で400年、500年と歴史を重ねていきたいと考えています。APRIL 2021111988年に経営学部を卒業。1718年の創業以来、約300年続く扇子店の十代目を継ぐ。代々伝わる京扇子の他、新素材を使った扇子や現代的なデザインの扇子を開発。また、2020年には手軽に口元を覆う「お口元扇子」を発売するなど、時代に合わせた扇子を考案する。立命館大学とのコラボレーションで、 学生や卒業生が喜んで使える 扇子を創りたいです新しいものと伝統の両輪で 次の100年へ
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