校友会報「りつめい」No.283(2021 JANUARY)
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JANUARY 20217YouTube「竜成の会チャンネル」の視聴はこちらから▶PROFILE京都府出身。金剛流二十六世宗家・金剛永謹氏、父・宇髙通成氏に師事。シテ方として自主公演「竜成の会」を主宰し、公演活動を行う傍ら、初心者にも楽しめる「能楽ワークショップ」を企画し、海外でも開催。YouTubeチャンネルで動画を配信し、能楽の普及にも尽力する。きない。そんな『一期一会』の舞台が、能の魅力です。同じ演目を連日上演することはないし、中には何十年に一度しか上演しない演目もあります。だから毎回、『これが最初で最後』という気持ちで演じています」。そう語るのは、能楽師の宇髙竜成さん。「シテ」といわれる主役を演じる5つの流派の中で、唯一京都を拠点とする金剛流の宗家(家元)と能楽師である父に師事し、3歳で初舞台を踏んだ。「父の指導は、それはもう厳しかった」と振り返る宇髙さん。幼い頃から毎日欠かさず稽古を積み、声変わりで子こ方かた(子役)を卒業する頃には40に及ぶ舞台を経験していた。決められた道を歩むことに反発した時期もある。中学で夢中になったのは、ロックとバスケットボールだった。自分でもベースの練習を始め、高校に入るとコピーバンドを組んで演奏するように。バスケットボールは能の稽古との両立が難しく諦めたが、音楽は宇髙さんの人生においてかけがえのないものになった。立命館大学でも軽音楽部に所属し、3ピースバンドでベースとボーカルを担当。自作の曲を演奏し、「音楽の楽しさにのめり込んだ」と言う。しかしそれが、能楽師としての自覚が芽生える契機になったというから不思議なものだ。「音楽に触れて、それまで当たり前だと思ってきた能楽師の先輩や鼓・笛の師匠の凄さに初めて気づいたんです。何十年も謙虚な心で芸を磨き続ける姿を見て、『なんて格好良いんだろう』と思い、能を究める面白さに目覚めました」。さらに大学ではもう一つ、得難い学びがあった。美術史の授業で、仏教美術の歴史、西洋の絵画や音楽の変遷を知ったことだ。「どんなに前衛的な芸術も過去からつながって今があります。それを学び、能も変わり続けているのだと意識するようになりました」と語る。能の歴史は650年ともいわれる。その長い年月の中で変幻自在に形を変え、さまざまなスタイルを生み出してきた。「そしてこれから新しい能を創るのは、今を生きる私たちです。同じ時代に生きる人が新鮮に感じ、共感できる能を創って初めて、未来にも残っていくのだと思います」と力を込める。2020年、コロナ禍により、それまで年間100以上行っていた公演がことごとく中止になった。しかしその中にあっても、宇髙さんが挫けることはなかった。「できることをやろう」と力を注いだのが、6年前から続けているYouTubeによる配信だ。能楽の他、さまざまな伝統芸能などを紹介している。これまでも一般の人を対象に能を教えるワークショップを開催するなど、能楽の魅力を広める活動に取り組んできたが、この間、リモートでワークショップを開催し、海外の人に能のコーラスにあたる地じうたい謡を教えるなど、新たな可能性も模索している。「それでも夏以降に公演を再開し、再び舞台に立てた時には、『やっぱりライブは良いな』とつくづく思いました」と宇髙さん。いつの時代も能は、ライブで演じられるエンターテインメントだった。自粛期間を経て、「二度とはないからこそ、良い舞台にしたい」という想いはいっそう強くなったと語る。「舞台の上で、時が止まったかのように客席の動きが静止する瞬間があります。目の肥えた人も、初めて能を見る人も、われを忘れて芝居の世界に引き込まれる。そんな『一座建立』の瞬間を創るのが、醍醐味です」。その一瞬を目指し、今もたゆまず鍛錬を続けている。最近、世界各国の伝統芸能にも興味を持つようになったという宇髙さん。形や表現方法は違っても、根底に流れる哲学や理論に多くの共通点があることがわかったからだ。「また自由に海外へ行けるようになったら、世界各国の伝統芸能の担い手たちと親交を深め、各々のノウハウを交換したい。いつか世界の伝統芸能が一堂に会するフェスティバルを開けたら、面白いだろうなと思っています」。夢は世界へと広がっている。「その日、その瞬間にしか見ることがで

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