会報りつめい291号 デジタルブック
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滋賀県・近江盆地の中心に広がるAUGUST 202316立命館の研究者たち from 立命館大学の研究部から発行されている研究活動報『RADIANT』。 日本最大の湖・琵琶湖。京阪神地域に住む1,400万人以上の人々の生活を支える水源であるとともに世界有数の古代湖であり、多様な固有種が生息する独自の生態系を今なお維持している。周辺地域ではこの水の恵みを生かした農業や漁業が発達し、豊かな食資源や食文化が現代に受け継がれている。「ところがこうした美しい自然や豊かな食資源の素晴らしさが、全国の人はもちろんそこに住む人にもあまり知られていない現状があります」。そう指摘する吉積巳貴は、地域資源を活用し、住民主体で持続可能な地域づくりを行う方法を研究している。これまで国内外のフィールドで、その土地の魅力や資源を生かすアクション・リサーチを実施してきた。2018年からは滋賀県北西部にある高島市と連携し、高島市の農林水産資源を再評価して新たなビジネスの創出や地域の持続的発展につなげる試みに取り組んでいる。2019年、立命館大学食マネジメント学部の研究者や学生とともに、高島市の高島、安あ曇ど川がわ、今津、朽くつ木き、マキノ、新旭の地区で食資源に関する実態調査を実施した。「農業・漁業従事者から食品加工業者、飲食店やスーパーマーケットといった小売り事業者まで、食産業に携わるさまざまな人々へのインタビュー調査を通して、食に関する情報の掘り起こしや食資源の再評価を行いました」中でも新旭地区での食資源調査で吉積らが注目したのが、豊かな水源を活用する仕組み「カバタ(川端)」である。吉積が指導する学生が収集した文献・資料によると、新旭町針江地区では2010年の時点で110ものカバタが機能している。「カバタは、比良山系から流れてくる地下水を民家に引き込み、生活に利用するこの地域独特の仕組みのことです。家の内外に作られた水場(外カバタ・内カバタ)は、収穫した野菜の土落とし、野菜や果物の冷却、調理器具や食器の漬け置きなど、実に幅広い用途に使われています」しかしライフスタイルの変化に伴って次第にカバタは姿を消しつつあるという。それに対し吉積は「カバタのある住まいや暮らしは持続可能な循環型社会のモデルとなり得る」と、新たな視点で評価する。「カバタの水温は一年中15℃前後と一定です。夏は冷たく冬は温かい。特に冬場は、外がいてついてもカバタのおかげで家の水は温かく、湯沸かし器などがなくても快適に炊事をすることができました。また数十年前までは、カバタに漬けた鍋や皿に付着した残飯をコイが食べ、カバタの水を使って耕す家の畑に、生ごみをまいて肥料にする慣習があり、カバタを中心に今でいう『廃棄物ゼロ』の生活が実現していました。現代でも学ぶべきところがあります」と説明する。加えて吉積らは、カバタを活用した食産業や食資源の事例も収集し、再評価している。「例えば針江地区で130年以上営業している豆腐店では、大豆を柔らかくするためにカバタの水を活用しています。また約160年の歴史を持つ造り酒屋では、酒造りに欠かせない仕込み水に湧水を利用しています」。こうした「カバタの水」という付加価値がどのように認知され、食ビジネスの創出につながっていくのか、吉積はカバタと食産業との関係を明らかにした。「事業者の方々は大変な努力で付加価値を生み出しているに「食」が拓く地域の未来

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