会報りつめい291号 デジタルブック
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AUGUST 202314「たこ八」道頓堀総本店にて呼ばれ装飾品として用いられた人造サンゴの玉を作る道具が代用されたという説があります。それを確かめようと、型を作る工場を訪ねました。でも地面に座って銅板を打っているおじさんが怖い顔で私を見上げるので、どうしても声を掛ける勇気が出ず、二度も引き返しました。最後には「今日は絶対行くぞ」と必死で出掛けたことを思い出します。そうやって苦戦しながらも少しずつ歴史をたどり、卒業論文をまとめました。卒論を完成させたものの、たこ焼きのルーツを全て解明するまでには至らず、「まだ終われない」という気持ちがありました。卒業後は同志社大学大学院に進学し、代用食についての研究をしながら、たこ焼きの調査を続けました。ルーツや歴史、技術まで調べ尽くし、渾身の自著『たこやき』を出版した時には、10年が経っていました。ちょうどその頃、全国的にたこ焼きブームが盛り上がりつつあったこともあり、本は想像以上に評判を呼びました。「タコヤキスト」などと呼ばれて、テレビ・ラジオへの出演や講演会、食品メーカーの商品の企画開発に携わるなど、活動の幅が一気に広がりました。全国各地に招かれ、講演会で調べたことを語ると「うちの地域にも、ありましたよ」と教えていただくことがあります。そのたびに、私の明らかにしたことはごく一部に過ぎないと感じるとともに、食文化をもっと極めたいという気持ちが大きくなりました。「たこ焼きミュージアムをつくりませんか」と声を掛けられたのは、そんな時です。でも「ハコモノ」に人が集まる時代ではなくなっていたし、何より一つの場所に縛られるのは私の性に合いません。もっといろいろな所へ行きたいと考え、たどり着いたのが、食文化を普及する組織をつくることでした。考えてみたら、たこ焼きだけでなく、お好み焼きもパスタもうどんもラーメンも、私が好きなものは、全部「粉物=コナモン」です。そこで対象を広げ、コナモンを中心とした食文化を普及・継承していくことを目的に、2003年、「日本コナモン協会」を発足しました。コナモンの面白いところは、形や味を自由に変えられることです。もんじゃ焼きからたこ焼き、お好み焼き、うどんにパスタ、パン、さらにはクッキーまで、加水によっていろいろなものになり、乳幼児から高齢者まで食べられます。私が好きなおいしさは、家庭で作れるものの中にこそ隠れています。庶民でも工夫次第でこんなにもおいしいものができる。そんな無限の可能性がコナモンの魅力です。高級料理ももちろんおいしいけれど、庶民が精いっぱい頑張って出したお金で食べる一皿のおいしさには、きっとそれとは比べものにならない大きな価値があると思います。加えてコナモンのおいしさの秘密は、その多彩な食感にあります。例えばたこ焼きには、かじった時の「外側のカリ、 中のトロ、そしてタコのプリ」と、いくつもの食感があります。 コナモンのおいしさとは何なのかと考えに 考え、「これだ」と発見しました。難しいのは、それをいかに多くの人に伝えるかです。食に対するリテラシーや何をおいしいと感じるかは人によって違います。その中でも、できるだけわかりやすく、親しみやすく伝えたいと、いつも考えています。「粉物」を「コナモン」と表したり、今では当たり前になっている「カリ! トロ!」という表現も、実は私が最初に言い始めました。日本コナモン協会を設立後は、コナモンの食文化を普及・継承するために、思いつく限りのことに取り組んできました。2012年には、大好きな「コナモン」を 大好きな「コナモン」を 普及・継承する協会を設立普及・継承する協会を設立「カリ、トロ、プリ」 「カリ、トロ、プリ」 多彩な食感が魅力多彩な食感が魅力

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