校友会報「りつめい」No.285(2021 AUGUST)
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—巻頭特集—新しい学びのカタチ「本当は大学で哲学を学びたAUGUST 20214かった。世の中の問題を解決するために『行動する哲学者』になりたいと思っていました」。そう言って笑顔を見せるのは上羽智文さん。社会人向けオンライン学習動画サービスを提供する株式会社Schooに創業当初から加わり、現在、複数のプロダクト責任者を務める。一見、哲学とは無縁の場所にいるように思えるが、心に秘めた想いは変わらないと話す。「『哲学では食べていけないぞ』と親に諭されて」経済学部に進学した上羽さん。最初は消極的だったが、学ぶうちに経済学のおもしろさに惹かれていったという。「例えば経済格差といった社会の課題を解決し、人がどうしたら幸せになれるのかを追求する。その点では、経済学は哲学に近い学問だと感じました」。学びだけでなく、課外活動にも積極的に取り組んだ。経済学会学生委員会に所属し、経済界で活躍する人を招いた講演会の開催や雑誌制作などの活動に携わった。一方で、友人と男子学生によるスイーツ作りサークルを設立。生協に協力を得て食堂で食べてもらえるメニューを企画したり、地域の祭りに手作りの菓子を提供したりするなど活動の幅を広げ、3年間で所属人数100名を超える規模にまで成長させた。「組織やビジョンをつくり、たくさんの人とつながりながら目的を成し遂げる。それを経験したことが、現在にも生きています」と語る。中学時代からホームページ作りに熱中し、独学で身につけたWebデザインの知識やスキルが買われ、卒業後はデザイナーとしてヤフー株式会社に入社。3年が過ぎ、独立を考えていた時にSchooを創業したばかりの現社長と出会い、「世の中から卒業をなくす」というミッションに共感し、入社を決めた。「とはいえどのようなサービスをつくるのか、ほとんど決まっていませんでした。毎日創業メンバーと議論し、文字通り寝る間も惜しんで新しい学習サービスを考えました。最初の3年間は今振り返ってもほとんど記憶がないくらい忙しかった」と苦笑いする。さまざまなジャンルのコンテンツや機能を開発してはユーザーの反応を確かめ、改良を重ねる中で気付いたことがあると話す上羽さん。それは「本当に学びを必要とする人こそ学ぶ機会を得られていない」ということだ。「やりたいことが定まっていない学生時代には学びの選択肢が豊富にある反面、社会に出て実際に困難に直面し、本当に知りたいことが出てきた時には学びの場がない。そうした学習機会の『ねじれ』に多くの社会人は苦しんでいるのではないか。これを解消したいと思いました」。それが現在のオンライン学習サービスの根幹となった。これまでに配信してきた学習動画は実に7,000本を数える。上羽さんらが意識しているのは「『今』多くの社会人が必要としている情報を届けること」だという。「特定の資格やスキルを身につけるための学校は他にある。私たちは例えば『年下上司とのつきあい方』というような、もっと身近でリアルなニーズに応えたいと考えています」と語る。「楽しく学び続けられる」ことを重視し、機能面を充実させるのもWebデザイナーとしての上羽さんの役割だ。毎日配信するオンライン生放送授業では、一方的に講師が講義するのではなく、受講生代表との対談形式にし、ユーザーとの双方向のコミュニケーションを実現するなど、視聴者の興味を促す仕掛けを考え、機能に反映させる。Schooの試みは、さらに広がりを見せている。現在上羽さんが進めているのは、企業などの法人向けサービスや大学などの教育機関へのオンライン学習のソリューション提供だ。「なりたい職業のスキルを、家にいながら習得できる。知識を得たいときは、世界中の大学の授業が受けられる。一緒に考える仲間に出会える。将来は、そんな風に学びが当たり前のように生活に馴染んでいる社会をつくりたいですね」と展望を語る。「目指すのは、全ての人が一生涯学び続けられる社会です」。そのために上羽さんたちの挑戦は続く。

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