校友会報「りつめい」No.285(2021 AUGUST)
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AUGUST 202110福岡市で開催されたG20の会合には300本の「木のストロー」が提供された立命館小学校で「木のストロー」の開発秘話を題材に、環境授業を実施企業の枠を超え、教育にも挑戦広報の重要な仕事の一つが、テレビや新聞などのメディアに自社を取り上げてもらえるよう働きかけること。2018年8月、その活動の中で知り合った環境ジャーナリストの竹田有里さんから「間伐材で『木のストロー』を作れないか」と持ちかけられたのが始まりでした。ちょうど廃プラスチックによる海洋汚染が世界的に問題になっていた頃。環境への取り組みは、会社にとっても重要だと思い、上司に開発を掛け合いました。けれど当社の事業にまったく関係のないストローの開発がそう簡単に認められるはずがありません。何度も何度も企画書を書いては提出し、会社にその意義を訴えました。やっとのことで開発の許可を得て喜んだのも束の間、その後はもっと大変な日々が待っていました。そもそも「木のストロー」を誰も作ったことがなく、手本もノウハウもありません。自分で試行錯誤しながら作り方を模索していく他ありませんでした。どこから材料を調達するか、ストローの形や大きさはどうするか、どうやって接着すればいいのか、接着剤の安全性をどう担保するか……次から次へと難問が湧き出てきました。素人の私一人では到底太刀打ちできません。上司や周囲の社員はもちろん、社内の研究開発部門、地域の町工場、思いつく限りの人に相談し、話を聞いてくれるところならどこへでも足を運び、知恵を借りました。朗報が飛び込んできたのは、その最中。東京にある高級ホテルが「木のストロー」のコンセプトに共感し、導入を考えてくださるというのです。その後、辛抱強く開発を後押ししてくださったことが、大きな力になりました。また、スライス板を貼り付ける接着剤の強度に課題を抱えていた時、立命館大学の恩師・岡本先生にも相談に乗っていただきました。研究室で指導してくださった時と変わらず気さくに話を聞いてくださり、構造力学の観点から貴重なアドバイスをいただきました。「本当にできるのか」。押し寄せてくる不安と闘いながら、目の回るような忙しさにクタクタになる毎日が続きました。「木のストロー」のため、周りの社員に本来の業務以外の仕事をお願いしていることも心苦しく、「これで良いのか」という迷いも消えませんでした。自分のためだったら、とっくに諦めてしまっていたと思います。社内で支えてくれる人や、開発に協力してくださる社外の多くの人たちに報いるためにも完成させたい。その一心でした。こうして紆余曲折を経て完成させた「木のストロー」は、想像をはるかに超えて大きな反響を呼びました。2019年に行われたG20では、大阪サミットをはじめ各地で行われた会合に計約7,000本を提供するなど、その後、一企業の枠を超えた取り組みへと広がっています。今振り返っても「やらない方が楽だった」と思うことばかりですが、後悔はありません。新しいことに挑戦し、やり遂げて初めて見えてくる世界があることを実感したからです。「木のストロー」を開発したことによって、私自身の視野も、人との出会いも、また活動の舞台も驚くほど大きく広がりました。国から「SDGs未来都市」に選ばれている横浜市との取り組みもその一つです。同市と連携し、地域の木材を使用し、地域の高齢者や障がいのある方々に木のストローの製作を担ってもらう「地産地消モデル」を構築しました。これによって、「木のストロー」作りを当社だけの取り組みに留めず、社会的な活動として持続可能なものにしていく道筋が見えたと感じています。

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