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自分とは違う視点の意見を聞くこと立命館の研究者たち from で物事に対する理解が深まったり、新しいアイデアを思いついた人は他者とのコミュニケーションや相互作用を通じてどのように新たな視点や知識を獲得していくのか。林はそのメカニズムを探究するとともに、コンピュータを使って人と人、あるいは人とシステムやロボットとの対話や協同学習を支援する方法を探究してきた。林によると、こうした研究は近年HCI(Human Computer Interaction)と呼ばれる学問領域で盛んに行われているという。「しかし情報工学立命館大学の研究部から発刊されている研究活動報『RADIANT』。 りした経験はないだろうか。「認知科学の領域では、異なる視点や知識を持つ他者とのインタラクション(相互作用)がメタ認知や批判的思考を促す上で有効であることが知られています。相互作用を繰り返すことで他の知識との関連に気付いたり、より客観的に知識を捉えることができるようになるのです」と解説した林勇吾。的なアプローチだけでは人のインタラクションを十分に捉えられないことがわかってきました」と林。そこで林はHCIに認知科学のアプローチを統合することで協同学習による知識獲得のメカニズムを解明し、その知見を生かして新しい協同学習システムやロボットを作り出そうとしている。現在研究しているのが、複数人が一緒に学ぶ際に効果的なインタラクションを促す「擬人化エージェント」、いわば「コンピュータの教師」を使った協同学習システムである。「誰もがすぐに学習効果の高いコミュニケーションを実践できるわけではありません。そのため教育の現場では教師や学習の補佐役によるファシリテーションが重要になります。学習場面でこうした教師的な役割を果たす『コンピュータの教師』は『PCA(教育用会話エージェント:Pedagogical Conversational Agent)』といわれます」と林。PCAを知的学習支援システムに生かそうという研究は数多くあるが、具体的にどのようにファシリテートすれば学習者同士のインタラクションを活性化し、協同学習を促進できるのか、いまだ最適な方法論は確立されていないという。林はまず、認知科学の発話分析手法(プロトコル分析)を用いて人と人との対話実験を行い、どのような言葉掛けがインタラクションを促進するかを明らかにした。そこでは、異なる他者の視点を取得する方法やメタ認知と関連する発話を抽出する分析を行っている。続いて、そこで得られた知見をもとに作成された発話モデルをPCAに実装。その効果を確認するために心理学的な実験室実験による検証を行っている。その一つが、学習者のペアがある概念について学んだ後、それについて「互いに説明し合う」ことでさらに理解を深めるという協同学習を支援するPCAだ。林が開発したPCAは音声認識と自然言語処理技術を使っAPRIL 202112ITが人と人とのコミュニケーションを活性化する

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